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2010年04月号 「迷い」

■果たして塾は、必要なのか?

 例えば中2と小5のお子さんがいらっしゃったとしましょう。受験学年直前の学年です。もし高校受験・中学受験を目の前にしているのであれば、当然のごとく「進学塾」なるものに通っているはずです。そういう学年のはずです。  

 海外では、どうなんでしょうか?数年後には帰国するご家庭だけを対象として考えてみると、中2や小5のお子さんに対して何を考えられるのでしょうか。海外のご家庭では、塾に通うことをどうお感じになっていらっしゃるのでしょうか。補助教育機関に選択肢がある地域であれば、例えば個人塾・補習校・算数教室・公文教室・そろばん教室などの組み合わせが可能かもしれません。でも、当地では、どうなのでしょうか?enaに通うことを、どうお考えなのでしょうか。

 「せっかくのアメリカ生活だから!」ということで、習い事も気合いを入れていらっしゃるご家庭も多いと聞きます。日本だったら「ちょっと高いからなあ」とパスしていたお稽古ごとも、えいやあ!と、思い切って習わせているご家庭もあるでしょう。例えば渡米間もないご家庭であれば、英語のチューターをお願いしているご家庭もあるでしょう。そうなると、費用がバカになりません。優先順位から考えて、「まあ、いまは塾は、いらないか」とされているご家庭も多いかもしれません。

 また、優秀なご両親が多い当地ですから、「塾に通うことで成績が向上するというのに不信がある」とハッキリおっしゃるご家庭もあります。そんなご家庭であっても、「迷い」をお感じになることがあります。『塾を否定するわけではない。定期的な全国テストを受けていて、成績もまずまず。ただ、このまま塾に通わないことが本人にとって良いことなのかどうなのか、判断が付かない。』とご相談に見えるケースも中にはあります。

 大事なところは、「模試などを使って、客観的な学力を把握していらっしゃる」というところ。これまで読み物でお話ししてきた「日本の勉強における、客観的な位置」をきちんと把握されている上でのお悩みです。「現地校では評価されています」とか「問題集の出来具合ではバッチリです」という視点からでは、私たちの言おうとしていることはご理解いただけません。そのことは、これまで何度もお話ししてきました。

 きちんとされているご家庭であっても、「迷い」はある。今回は、お子さまの成績が安定している・塾には通っていない・でも「何か迷いを感じる」というご家庭のことを考えて、まとめてみたいと思います。  

■家庭での指導

 これまでお話ししてきてたとおり、海外で生活する子供たちの間では「お父さん先生・お母さん先生」のご活躍が見られます。また、子どもたちが二足のわらじを履くことは、例えば『朝のちょっとした時間の利用』『土日のフル活用』などをガッツリ利用されていらっしゃいます。理系科目はお父さん先生、文型科目はお母さん先生と、分担されていることも多く見られます。

 そういいながらも親子バトルは、あるわけです。「なんで分からないんだ!」と感情的になってしまうこともある。時間があるときにしか見てあげられないので、ぶつ切り・やりっ放しの状態にも陥りやすい。いい加減疲れるし、めんどくさくなったり。これもまた、事実であったりします。そんな精神状態のなか、我が子が勉強するのになかなか取り掛からなかったりすると、「時間が限られてるのに!!」と怒ったりの繰り返し。こんなのだったら塾に放り込んじゃった方が楽かなあ、とも考えたりします。

 また家庭学習は大事であることは何をおいても絶対なんでしょうが、不安なのは「情報」について。ネットが当たり前になって、学校ともメールを使って簡単にやりとりできるようにはなったけれども、それでも「はたして、この情報通りで良いのか?」と思うと不安でたまらなくなる。補習校の担任に進路相談しても「知らぬ存ぜぬ」となるだろうし、いろいろな地域の受験事情に精通しているとは到底思えない。家庭教師も、教えることだけなら任せられるかもしれないけれど、受験情報となると疎いと開き直っている。こうなると、情報入手のためだけと割り切っても、塾に通った方が良いんじゃないかと焦ったりします。これって、いわば「家庭学習の限界」なのでしょうか?  

■塾をどうやって活用するか

 そもそも、塾に通わせるタイミングって、いつが良いのでしょう?極端な話、補習校にもいかず、でも日本の勉強もがんばっている。でも、不安になる。さてさて、もし塾に通うほうが良いかなと考えた場合、いつから塾通いを考えれば良いのか?もし、とるべき成績をきちんととっていらっしゃるのであれば、答えは1つです。

 『タイミング』

 一般的には、中学受験を目指すなら4年生や5年生からといった塾のカリキュラムに合わせて入塾する方が多いようです。でも、本当のことを言えば、人それぞれです。ましてや海外にいらっしゃるご家庭は、いろんな教育背景をお持ちのご家庭が多い。単純に、学習単元だけを追いかけてみても、先取りしていらっしゃるご家庭もあれば、復習を徹底的にしていらっしゃるご家庭もある。だから、人、それぞれ。そういうことです。そういう意味で「タイミング」としているわけです。

 「タイミング」という言葉。お気軽にというか、短絡的に考える方が非常に多くて、質問に答えても答えても、質問がやってくることがあります。私たちの考える「タイミング」というのは、簡単に言えば『なにかに困ったとき』であり、しかも、『選択肢の1つとして検討する』ということです。当然のことです。

 「困ったから塾に入れる」のも「困ってないけど塾に入れる」のも、「塾で勉強する」ということ自体は同じです。子ども自身にとっては同じことです。しかし、「親にとってどうか?」ということに注目してください。子どもにとっては同じ「勉強をする」でも、親があれこれ解決策を考えた上で塾に通わせるのと、考えずに通わせるのでは結果が違ってきますよ、と言いたいのです。仮に「4年になったから塾に通わせよう!」などと意味もなく決めていたのでは、結局、塾に丸投げ状態になります。近所の○○ちゃんも通うから通わせよう!というのも同じこと。この場合、つまり、何も考えずに塾に入れる場合、高い確率で成績は上がりません。考えてもみてください。塾に通って、すぐさま成績が上がってる子どもなど「ほんの一部」です。成績を上げたいと考えるなら塾に丸投げでは無理だということです。塾講師の私がいうことではないんですけどね。。。

 「何かに困ったとき」と書きましたが、『家庭学習に問題が発生した』と言い換えてもいいでしょう。家庭学習をいろいろトライしてみて、問題が発生したので解決策を考えてみた。いくつか策を考えた上で、塾で勉強させることに決めた。これが、入塾を決める理想の流れです。その選択肢の途中に、家庭教師もあり、補習校もあり、通信教育もあり、ということです。

 日本の学校への受験を考えた場合は、ハッキリ申し上げて、enaが必要な方が圧倒的に多いでしょう。enaの持つ受験情報量、学校とのパイプ、海外生を熟知した指導方法など、補習校の学習内容・指導方法、そしてころころ変わる現地採用の、海外生の指導経験が乏しい先生では、対応できませんからね。

 だからといって、すぐにenaに入れるのではなく、家で受験に向けた勉強を親子ではじめてみるのです。いろいろな「困ったこと」を見つけるために。

 この「勉強」は、何も「●●算の解き方」だけを指しているわけではありません。学校について調べてみること。帰国枠受験自体について調べてみること。そういった「保護者のための受験勉強」もあります。親子で「勉強」をはじめて見ると、そりゃあまあ、いろいろな問題が発生します。現在の学年の学校の教科書の内容は、それほど難しくないので、問題が発生することは「まず」ありません。逆に、教科書内容で「ふーふー」というようであれば、大問題です。受験どころの騒ぎではありません。日本に帰るなら、即、落ちこぼれの危険性もある。大至急対処しないと、トンでもないことになります。そのレベルはさておき、通常のレベルの学力を持った子どもが教科書を使って勉強し、いざ受験を意識した勉強に切り替えた場合(過去問を見たり、とか)、特に有名難関私立校の問題などに取り組んだとき、少し先の勉強をしたりするとき、問題が発生することがあります。  我が家では何の問題もありません!と自信満々で言う方がいるのですが、問題がないのではなく、ただ子どもに負荷がかかっていないから問題が発生しないということが多々あります。簡単すぎた、ということです。基本しかやらせていない。受験には関係ないような、超基本しかやらせていない。だから「わからない」ということは言わない。補習校の勉強など、まさに、それです。それでは、日本の学校に進学するときに、問題が発生してしまうのです。

 余談はさておき、子供と勉強をしてみると、例えば、

 (1)子どもがグズグズして勉強しない  
 (2)親が指摘しても言うことを聞かない
 (3)新しい単元を勉強するには親が先生になる必要がある。
 (4)小さい頃は良かったけど、だんだん教えるのも難しくなった。
 (5)教えることから演習までを子どもに付き合う時間がない。etc。。。  

 やってみると、いろいろ問題が発生します。じゃあ、ついにenaの出番でしょうか?ちょっと、待ってください!よく考えてほしいのです!「今」、発生している問題は、果たしてenaに通えば解決するのでしょうか?

 特に、
 「(1)子供がグズグズして勉強しない」
 「(2)親が指摘しても言うことを聞かない」

 この2つは、enaに通っても解決する問題ではありません。家でグズグズする子や親の言うことを聞かない子が、enaではちゃんと勉強することだってあります。でも、家に戻れば同じことだということを忘れてはいけません。ほとんどの塾では、新しい勉強を授業で教え、主な演習は家庭学習で定着させるといったサイクルで行います。この定着させる家庭学習に問題がある状態では、いくら良い塾に通っても成果を出すことは難しいということになってしまいます。

 一方、(3)(4)(5)などは、塾に通うことで解決するかもしれません。だったら、塾では「この部分」をお願いして、あとは家でキッチリさせるということも、方法論の一つです。  

■でも、でも、でも

 こんな話をすると、「そんなことをしていたら、塾に入れる時期が遅くなり、手遅れになるのではないか?」とご心配されるご家庭もあるかもしれません。それならば、手遅れにならないように、早い時期から家庭学習をはじめれば良いだけのことなのです。やっぱりトライ&エラーをやったご家庭だけが、我が子が実際はどうなのかをご存じいらっしゃるし、どう導いていくのか、どういう言葉に反応するのか、ご存じなのです。「どういう性格なのか」ということは、現実に子どもとかかわって、そして「負荷」をかけてみないと、わからないものです。

 4年から中学受験のカリキュラムがはじまるのであれば、少なくとも半年前ぐらいからカリキュラムの内容を市販の教材を買って、家ではじめれば良い。中2から本格的な問題になっていくのであれば、中1の夏以降には家庭学習で準備を始めたら良いわけです。もしも受験へのカリキュラムがわからないとご心配であるなら、enaにいらしてください。廊下にテストカリキュラムがあります。新年度説明会や面談、教育講演会、そして入試報告会をご利用頂き、帰国枠受験の必勝パターンをお聞きになれば良いのです。

 4月に渡米されたご家庭ならば、現地校はあと数ヶ月でオシマイ。でも日本のスケジュールであるenaは新学期開始後2ケ月たったところ。もし、enaに入るなら、5月までに入った方が子どもへの負担がかかりすぎない。適度な「負荷」になります。秋以降なら、どの学年においても「本格的な負荷」をかけていくわけであり、しかも現地校は新学年に切り替わるので、負荷のかかりすぎで潰れてしまうことも考えられるのです。  

■伸び悩み

 「家庭学習のみでは成績は伸びない」「家庭学習だけでは競争心が育たない」というようなこともいわれたりします。これは、一部分、事実です。「レベルが高い家庭学習をした上で出てくる問題」といわれます。要するに、伸び悩みです。でも、それは家庭学習をしっかりやって、伸び悩んでから、次の策を考えればいいわけです。難関校に出てくるような問題に取り組めるようになったところで考えてください。基本問題で満足しているようなケースでは、当てはめられません。公文式にも注意です。ドリルだけでは、総合問題に対応できません。読解問題が弱いこと、記述式が弱いことに対して、何を考えていくか。勉強習慣を身につけることにおいて、公文式は素晴らしい。でも、「公文やっているから大丈夫」と「逃げ道」を作ってしまうことは、受験ではマイナス効果です。

 また、家庭学習だけでは競争心が育たないかもしれません。ライバルが見えないからです。家庭教師にも同じ事が言えます。ena海外校舎であっても、実は、同じ事が言えます。ライバルが少ないから。日本の校舎であれば、1クラス20人で5クラスあったりする校舎もあります。20人の中で切磋琢磨し、1つでも上のクラスに上がろうと努力することも可能かもしれません。それが海外という特殊環境では不可能です。

 でも、ものは考えようです。家庭教師や家庭学習の最大のメリットは塾に通う時間のロスがないこと。その時間を勉強にあてることが可能です。そう考えれば、それぞれ一長一短となります。各ご家庭で、それぞれの項目・補助教育機関・教材などを天秤にかけて、必要なものを選択していけば良いのです。

 ただし、注意点があります。学校選択の時にも当てはまるお話。それは「すべてが備わっているものなどない」ということです。妥協、とはいいませんが、優先順位の何を「ゆずれないもの」とするのかを考えなければいけません。ましてや、限界が低い海外です。「こんな寿司、日本じゃありえない〜!」と文句をつけるのは「お門違い」です。ここは日本ではないのです。日本の基準を全くそのまま使うには無理があるのです。

 優先順位を考える。それぞれの項目の、妥協できるラインを引く。引く、そして「やってみる」と、何が不足なのか、何が家庭では無理なのか、見えてくるものがあるはずです。やっぱりプロに頼みたいと思うものがある。家でやっていて十分だと思えるもの。様々なものが見えてくるはずです。その上で、「ああ、この部分は迷うなあ」「これは家じゃあ無理だなあ」と思う気持ちが「親側」に出てきたならば、塾に相談すべきです。(注:enaに通わせましょう、とは言っておりません)

 高校受験以上は本人主体の受験と言われますが、海外の場合難しい。どうしても親がかりの受験になってしまう。それは否定できない事実です。ましてや中学受験など、まさに「親の受験」といわれるもの。海外であれば、日本の数倍、親にも負担がかかります。塾が必要かどうかは、親にとって必要なのかどうか?そこにも判断基準がありそうだ、と考えてみては如何でしょうか。

 

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