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2010年02月号 「甘い?!」

■さて、ここで質問です。  

 我が子には『甘い』ですか?それとも『厳しい』ですか?

 たぶん想像するに「ウチは厳しいよ!」とおっしゃるご家庭が多いのではないでしょうか。この地域では特に現地校が軌道に乗るまでは、きっちり厳しくやっていらっしゃるご家庭が多いと聞いています。教育熱心なご家庭が多いこの地域。お父様もお母様も高学歴でいらっしゃることから「子供を甘やかすのはいけない!」とおっしゃるご家庭が多いのではないかと思うわけです。そのこと自体、皆さんも特に反論はないでしょう。

 それでは「子供に甘い!」ということを、こと『勉強面』に絞って考えてみたらどうでしょう?それを意地悪な質問形式でお聞きすると、こうなります。

 『子供を甘やかすと、成績が悪くなりますか?良くなりますか?』

 これについてはどうでしょう?「はあ?!」と感じられたのではないでしょうか。私たち塾屋・受験屋は、育児に関してのアドバイスなど、恐れ多くて差し上げることはできません。だってそうでしょう?子育ての面から言えば、先輩がたくさんいらっしゃる。私たちの方が学ぶべきことがあっても、アドバイスすることなど、ひとつもありません。私たちのことはさておき、世間一般の価値観から言うと『子供を甘やかすと、ロクなことがない』という言い方があります。それはどうなのでしょうか。みなさんは、この質問にどうお答えになるのでしょうか。

 私たちの答え。「成績は良くなります」です。私たちが考える成績の良い生徒の親は、『子供にものすごく、甘い』のです。「おいおい、そんなことまでOKになっちゃの!」っていうくらい甘いです。特に海外校舎勤務になってから、「甘い」と感じることが多くなりました。日本国内勤務のときは、皆さんと同じように「子供を甘やすから、成績が悪い!」と思っていました。  

■甘いって、なにが?

 成績が良い生徒の親は、どう『甘い』のか?具体的に見てみましょう。たとえば、これまでにもお話してきましたが、

 『勉強の計画(予定)は親が立てる』『勉強の準備は親がする』『プリントの管理は親がする』『できていない問題を親がチェックする』。。。などなど

 成績が良い生徒の親の多くは、こんなことは「お茶の子サイサイ」でやっていらっしゃいます。というか、当然のこととして日常生活に組み込まれていますね。極端に言えば、お母さんがテストを受ければ「バッチリ」というくらいです。テスト日程などのスケジュール管理は、当然されています。「あ、今日、模試だった!」などということは、国内ではよく見られた光景でしたが、海外校舎では殆ど見られません。これらを考えてみると、どう考えても甘いと言わざるを得ません。現地校もあって、習い事で忙しくて、それでも日本をしっかり見ていらっしゃるご家庭であれば、当然、こうならざるを得ません。子供だけで管理しきれることではないと、ご家庭がわかっていらっしゃるからです。

 日本にいたら、特に中学生のご家庭であれば「テスト前だから計画立てなさい!」と子供に作らせるでしょう。そして「計画たてたんだから、この通りに頑張りなさい!」と親は怒鳴ります。そしてうまくいっていないと「あなた、これ自分でやるって作ったんでしょ。なんで守らないの!」と親子バトルに発展。計画表だけでなく、自分の勉強の準備くらい自分でするのが「当たり前!」なのが、小学校高学年以降なら普通といわれます。自分がもらったプリントを管理するのは、もちろん「子供自身」です。

 小1だったら親がかりというのもわかります。でも小学校高学年のみならず、中学生になっても、海外校舎在籍の、『成績優秀者のご家庭』では「親がきちんと子供を管理している」わけです。成績が良いご家庭では、これが常識です!

 お父様の中には「情けない!そんなことでどうすんの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。お母様の中には「お母さんはあなたよりも先に死んじゃうのよ!自分でできなくてどうするの!」とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれません。中には「甘い」とわかっていながらも準備しているご自分を「これで本当に良いのかしら?」とご自分を責める方がいらっしゃるかもしれません。でも、甘いのは、成績向上に「必要条件」なのです。特に海外に生活する子供たちにとっては。。。  

■からくり

 その理由は簡単なことです。それは『子供は、日本の勉強をする「だけ」で良い』ように、環境整備されているからです。子供は「それだけ」をやるようにし向けられていますから、迷いは生じません。あれもこれもと欲張らないので、とっちらかることもなく、集中して取り組めます。そして他のところからは評価を得られなくても、自分で正面から取り組んだことに対して評価が下され、それがモチベーションとなります。好循環が始まるように環境整備されているわけです。

 私たちは保護者会や教育講演会で「我が家の基準値を考えてください」とお話ししています。進学塾にいらっしゃるご家庭であれば、日本を向いていらっしゃるわけです。当然、日本の勉強を最優先させて、帰国後の進学に備えようと「頭では」おわかりになっていらっしゃるはずです。我が子に何を望んでいるのか?何をさせたいか?海外にいることで見えなくなってしまう危険性が最も高い「日本の勉強」。ライバルも側にいない。耳から否応なしに入ってくる情報もない。日本の勉強、日本への進学に関する情報。それを思うと、我が子には何はともあれ日本の勉強をさせたい。でも、たいていの子供が最も逃げたい、そして、できればやりたくない「日本の勉強」です。現地校の勉強だけで十分じゃないか!二重苦など、好んでしているわけじゃない!親が子供を連れてきてしまったという『負い目』があるからなおいっそう「甘く」なる。だから、準備に計画、チェックまで親がする!

 ここで、差が生じます。「日本にしっかり向いているご家庭」と「全部が優先順位1位の欲張りご家庭」の2つです。前者のご家庭が、これまでお話ししてきた「成績の良い生徒」のご家庭です。なぜなら、ご家庭での優先順位の1位は、「子供に日本の勉強をさせる!」となっており、子供自身にとっても「やるべきこと」がはっきりしています。そして周りの大人は、その「軸」を中心に、成果の出るやり方を伝え、余分な負担は親が背負っていらっしゃいます。まあ、ぶっちゃけ、具体的に言えば「どうでも良い現地校の宿題」などは親がやってしまっている。この「どうでも良い」か「やっぱり、これは本人がやったほうが良い」かということも、きっちり親が判断しているわけです。「本人がやりたいと言ってるので。。。」というように、子供に軸をおきません。子供に軸をおくと転覆する危険性が増えてしまうからです。後者の「欲張り家庭」では「現地校のことも大事。お稽古もせっかくだから。もちろん日本のお勉強も大事なのは、わかっています!」となっています。聞こえは良いですが、子供は疲れてしまって、どこに力を入れるべきかも分からず、とりあえず「自分の力でやったもの」で更に「人から評価されたもの」に対して自信をつけ、その快感をより多く得ようとするが為に突っ走ってしまう。それが帰国前でしかも受験生であれば、当然日本の勉強に走っていくべきなのですが、お稽古ごとだったり現地校のプロジェクトに走っていったりするわけです。で、後者のご家庭では「本人が一生懸命やっているから」とおっしゃって、そのことを良しとされる。「現地校が忙しくて塾の宿題などできませんでした」という言い訳も、ご家庭が許可してしまう。そうすると子供は、ほとんどの場合、成績向上のみならず、全てのことに対して「逃げる」という姿勢を学んでしまうことが多く見られる。「できることしかやらない」という姿勢。それ以外を拒絶するようになります。前者と後者とでは、成績向上面から言うと正反対の現象が起きています。  

■優先順位と大義名分

 成績が良い生徒の親は「甘い!」わけです。

 あなたはお子さんに何を望みますか?あなたのお子さんにさせたい優先順位の1位は何ですか?ここまでお話してもまだ「お怒りの声」が聞こえますね。「自分のことは自分でする子供になって欲しい!」とおっしゃるご家庭がたくさんありそうです。なるほど。ならば、それが優先順位の1位としましょう。そうすると受験とか日本の進学は2の次で宜しいのですね?「勉強は子供の仕事。やるのが当然!仕事(勉強)の計画や準備をするのは、当たり前じゃないか!」とおっしゃるご家庭もありそうですね。おやおや。これでは欲張りです。1位が複数あっては、子供が倒れるだけと申し上げました。器用なお子さんだったら、何を申し上げることもありません。普通のお子さんであるならば、欲張ればそれだけ散漫になること、明白です。だから「軸」を作って頂きたいとお話ししています。1つのことだったら誰でも集中できます。せざるを得ませんから。だから現地校優先主義であるなら、日本への目はつぶるしかありません。日本への進学が当然第一であるならば、その他のことは見ないようにするしかありません。私たちのこうした態度に「オールオアナッシングだ!」と批判されるご家庭もあります。でも、よく考えてみて下さい。子供はスーパーマンじゃありません。大人だったら過労死してしまうことを、子供だから耐えられることもあります。でもそれは、子供自身が強く望んだ結果、とてつもない力が発揮できているからで、その精神力は脆く、いつ何時折れてしまうかわかりません。特に日本の勉強から遠のいてしまった生徒の場合、現地校の勉強に集中しろと叫び続けてきたのに突然手のひらを返してしまった場合、やりたくない日本の勉強を小学校の高学年だから、中学生だから、できて当然だろ!というのは、そもそも無理な話ではないでしょうか。日本を出たときから、子供の年齢にかかわらず、二重苦の対処に仕方なり、手順なり、方法を教えてきたならまだしも、「やれ」「がんばれ」というだけでは、それは「親の怠慢」ではないでしょうか?

 もちろん、小学生の高学年くらいになれば、ちゃんと自分で準備も計画もできる子はいます。でも、その子供たちは、幼少の頃、「計画や準備を自分でする」が優先順位の1位で、それを家庭でやってきた結果そうなっているわけです。何も教えずにそんなことができるのは、本物の優等生。本物の優等生ならば、何処に行っても、何をやらせても、成績優秀。塾なんて不要です。  

■「甘い」から「厳しい」

 でも、たいていのご家庭では、違うでしょう?我が子は何処へ行っても何をやらせても、簡単にできちゃう!と豪語できる状況には無いですよね。お父さんとお母さんが苦労されていらっしゃる。子供たちもアメリカ生活になじもうと毎日を必死に生きている。すでにそういった状況なのに、さらに「自分のことは自分でする子供になって欲しい!」とおっしゃるのであれば、無謀を通り越して児童虐待に近いと私には思えます。そんな大義名分はさておき、まずは「親にとっての優先順位」をつけて、「1つ」ずつやらせたらどうですか?まず「日本の勉強」をさせたいなら、日本の勉強をする環境は「親」が整えてやる。まずは日本の勉強「だけ」をさせることです。「日本の勉強」も「現地校の勉強」も「お稽古ごと」も「準備」も「計画」も「管理」も「計画チェック」も「早寝早起き」も、ましてや「成績」や「テストの点数」までも責任もってやれ!というのは、無理難題を押しつけているだけです。これは、例えば新入社員なのに、いきなり300人の会社の社長をやれ!って言うのと同じくらい無理なことです。残酷なことです。せっかく現地校からアドバンスクラスの履修を勧められているからと簡単に考えていらっしゃるご家庭は、ここでよく考えてください。子供を潰さないか?「子供の方がやりたいっていったから」とおっしゃるお母さんがいらっしゃいますが、基本的にそれは間違っています。だって、そうでしょう?お子さんは自分で判断することができません。近所にたくさんのお友達=サンプルがいるわけでもない。親が言うことは基本的に絶対なのです。親から「どうする?」といわれたら、「がんばります」というしかないじゃないですか。それをわかって子供に判断させるということは、すなわち、子供に責任を負わせているということ。逃げ道をふさいで居るんです。これは、もし失敗したときに、子供をひどく傷つけ、最悪の場合再起不能にします。だから子供が「やりたい」といったときでも、親が決めましたという「逃げ道」は提示してあげるようにし、「あんたが決めたんだから、自分でやんな」という態度は、小中学生の場合であれば、決してとらないようにする。環境作りは親が整える。子供は「やるべきこと」に集中する「だけ」。これが成功するコツです。

 アメリカ人家庭でも、実は同じことが言えるケースが多いのです。成績優秀なご家庭をのぞいてみてください。成績優秀な子供の親は「子供が勉強する」が何よりも最優先。そのために、勉強する前の準備は親が一手に引き受けていることがわかります。そして、整理する役割もこなしています。たとえ、それが世間から甘いといわれようとも、親は少しでも良い環境のために奔走しています。それは日本国内のご家庭でも同じ。つまり、国が違っても、人種が違っても、教育システムが違っても、根本のところは変わらないのです。  更に言えば、成績が良い子の親は、「勉強の準備」には甘い親ですが、「勉強の成果」に関しては、とても厳しい。そりゃ、そうです。子供の分を親が負担して「勉強のみ」に全力を注げる体制を作っているわけですから、成果が出ないと言うことは環境を作った親自身が悪いか、走っている子供が手を抜いているかのどちらかです。親自身に問題がないと判断したら、走った子供に問題があるということになります。それがあるから、子供もその厳しさを理解する。例えば、時間。時間については、成績が良い子の親は厳しいです。何時から勉強をすると決めれば、必ずその時間にはじめます。勉強の間、そばにいたりしますから、親自身の予定も空けないといけません。だから、当然厳しくなるわけです。子供は今日やる勉強内容の教材は親から揃えてもらい、あとは机につくだけ。そばには「勉強すること」が最優先の親がいます。準備を一手に引き受けた親がそばにいるわけです。時間内に全力で勉強することは、避けることはできない環境にあります。「あ〜あ、今日は手を抜きたい気分だよー」というような気まぐれは、許されるはずがありません。

 「甘い」があるから「厳しく」なれる。いかがでしょう?子供には、スーパースター並みの負荷をかけ、それを厳しさだけで、追い立てる。成果がなければ追い詰める。それでは子供を潰すに決まっています。まるでサラ金の取立てではありませんか!そんな環境で成績が向上していった例は、私には経験ありません。

 あなたがお子さんに望む最優先事項はなんですか?子供に対しての「甘い」を取り違えていませんか?もしそうなら、今年こそは『親』が変わるべき年です。

 

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