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2002年5月号 「進学に王道なし」
先月に引き続き、首都圏以外の地域にお帰りになる、高校受験を考える方へ

■前回までのまとめ■

 3月、4月の読み物で、首都圏以外の地域に帰る中学生(高校受験)ついて考えてみました。もう一度要点をまとめてみますと。。。

 @ 帰国生に対する配慮が為される学校は首都圏と比較するとごく僅か。
 A 私立が強い地域もあるが、圧倒的に公立優勢。
 B 公立高校入試であれば中学校での成績(内申)の比重が大きい。
 C 帰国するタイミングを間違えると非常に厳しい受験になりやすい

ということになりました。大学進学を中心に更に深く調べてみました。

■選択肢がない地方の受験生■

 まずは「高校進学自体」を考えてみます。「どのレベルの学力に対しても高校が存在する」地域であれば良いのです。ところが多くの地域ではそこまで学校のレベルが細分化されていません。大きなポイントは「底辺校の存在の有無」です。

 例えば広島県の場合は一般に通知票(10段階評価)で平均6を切ってしまうと「普通科高校進学が無理」で、「職業科高校」になってしまうといわれます。10段階評価での6というのは偏差値換算すると一般的には大体50以上55未満に相当し、計算上38%の人が当てはまります。いわゆる普通の成績ですが、それにちょっとでも欠けると普通科高校には行けなくなるというのです。

 現地校で頑張っていたんだから、日本に帰ってちょっと頑張れば「普通の成績」ぐらいは取れるだろう。今の日本の高校受験制度上で、そう呑気に構えることは危険です。前回もお話ししたように、内申が関係する推薦制度や、それに伴う一般入試の定員削減を考えれば決して安穏と構えていられないからです。

 学校が多く存在する地域、例えば東京であれば都立高校普通科で下限は偏差値40まであります。私立高校であれば、それこそ更に下のレベルまであります。「行きたい高校」ではなく「行ける高校」を探すことも可能なのです。当然ですが、地方に帰るのであれば、選択肢が少ないゆえ、普通科の高校へは行けないという事態も成績によってはあり得るわけです。

■TOP校でなければ難関大学への道のりは険しい■

 難関大学への希望をしている場合、ちょと大まかな捉え方をしてみましょう。

 埼玉県の北部に熊谷という都市があります。この地域の公立TOP校は「熊谷高校」です。明治28年創立の伝統ある男子校。県内四天王の一つともいわれる高校で偏差値は70。大学の指定校推薦枠も早稲田・慶応・明治・上智・中央・立教などがあります。この高校を受ける受験生が併願するのは開成・慶応志木・早大本庄などの上位難関高校です。大学進学者は47%、専門学校へは1%、浪人が52%というのが卒業生の状況です。一方、同じ地域に熊谷西高校があります。こちらは昭和50年創立の共学校です。学区内第二位の高校であり、偏差値は65です。大学の指定校推薦は中央・明治・法政・専修・成蹊・日大などがあります。受験者の併願は本庄東・本庄一・東京農大三などです。卒業生の進路は大学へ48%、短大へ6%、専門学校へ7%、就職1%、浪人が38%となっています。学校の基本データからだけでも二校の差は読みとれますね。

 偏差値が5しか違わない学区第一位と第二位の高校ですが、例えば指定校推薦先などは明らかに違っています。難関大学からの指定校推薦がくる高校というのは、毎年優秀な受験生が存在していることの証でもあります。大学の偏差値ランキングがそのまま高校のランキングに当てはまっているわけです。TOPと二番手では、大学進学時に1ランク違ってしまうという見方が可能ではないかと考えることも出来ます。

 さらに、細かい大学進学データを見てみましょう。ある年の熊谷高校卒業数は410名でした。このうち現役で大学に進学した生徒は47%(193人)であり、52%(213人)が浪人しています。一方熊谷西高校は卒業生320人のうち、48%(154名)が現役で大学に進学し、38%(122人)が浪人しました。さて、この割合や、人数をもとに次のデータを考えてみて下さい。

@=東大、東工第、一橋、京大、外大、医科歯科大、学芸大などの国立大

A=早稲田、慶応、上智、中央、明治、立教、法政などの難関有名私立大

B=日大、東洋大、駒沢大、専修大などの有名私立大とします。

大まかな比較なので浪人も含む割合で表現してみます。

熊谷高校(現役・浪人を含む大学合格者数745人分をもとに作成)
 @=2.95%  A=42.81% B=20.81%

熊谷西高校(現役・浪人を含む大学合格者数423人分をもとに作成)
 @=3.78%  A=16.31% B=31.91%

 AとBは予想通りの結果ですね。指定校推薦の様子でも1ランク違うということですから、受験であっても、こういう結果となるわけです。もちろん個人差がありますから「鶏口となるも、牛後となるなかれ」と考え二番手の学校で頑張る生徒もいるでしょう。それでも多くの生徒は周りの影響を受けやすい年齢のはずですから「朱に交われば赤くなる」という結果なのでは、とも考えられます。当然といえば当然の結果です。この地域でも、二番手以降の高校、いわゆる中堅以下の高校からは@、Aの様な大学へは進学していません。Bのレベルが限界です。進学希望率でさえ、TOP校とは桁違いということもあります。

 この視点から考えれば、当たり前の結論しか見出せません。「ある一定レベルの大学に行きたいならば、やはり地域のTOP校に行かなければ難しい」ということになります。関東の埼玉県公立高校で考えましたが、地方であってもほぼ同様のことが考えられると思います。首都圏でも、地方でも「高校のレベルは大したことはないのに、大学合格実績はバツグン」ということはありえないのです。  

■国立大と一口に行っても様々■

 国立大学のデータである@については、熊谷西高校の方が優秀と見えます。今や国立大学は人気ですから「2番手の方が良い??」と思われたかも知れません。実はカラクリがあるのです。@のデータを更に細かくしてみます。

 C=旧帝大(北大、東北大、東大、名古屋大、京大、阪大、九大、筑波)

 D=旧官立(千葉、東工、一橋、新潟、金沢、神戸、岡山、広島、長崎、熊本)

 E=新7大(弘前、群馬、医科歯科、信州、鳥取、徳島、鹿児島)

 F=部制大とその他(北海道教育、岩手、秋田、埼玉、横国、外大など。。。)

これをもとにすると

熊谷高校 C=0.67% D=1.74% E=0% F=0.54%
熊谷西高校 C=0.47% D=0.23% E=0% F=3.07% となります。

 つまり、熊谷西高校が強かったのは、地元の、ある特定の国立大(ちなみに埼玉大学です)だったわけです。推薦枠で、ある一定以上の受験生を合格させているのかまでは不明ですが、各地域の上位校から特定の国立大学への道はある程度確保されていることが考えられます。この例は、全国の都道府県で見られます。新7大のなかにも、例えば信州大などでもこの傾向が見られます。長野県立須坂高校平成13年度現役合格実績は国公立大へ66人、私立大に176人(延べ人数)でした。国公立大学の66人のうち、23人は信州大合格者です。

 これらのデータからは、地元にある部制大や旧帝大以外の国立大学であれば、地元の上位高校から現役で合格していく受験生が多いことが分かりますし、それが最短ルートではないかと考えることもできます。そして「東大や京大」などの難関国立大学は全国区であり、全国的に有名な難関高校からしか合格者がでていないという「当たり前の事実」が再確認できました。

 では「地方に帰る=地元の国立大学を第一希望とする」という場合を、逆の視点から考えてみます。Fに相当する「岩手大学」のデータから考えてみましょう。

<岩手大学平成13年度入試データより>
 現役志願者数=3886人、浪人志願者数=1011人、計4936人。志願者のうち、東北6県(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)からの受験者は約76.6%。関東7県からは8.4%程度でした。合格者のデータは現役合格者数=1076人、浪人合格者数=237人、計1321人。このうち、東北6県からの合格者は82.7%。関東7県出身者は5%程度に過ぎませんでした。

 「関東圏から東北の大学を考えるとは例が少ないはず」という考えは正しいと思いますが、その視点は「地方から東京の大学を受ける受験者数は限られている」ということと同じだとも思います。沖縄県の進学校である沖縄尚学高校でも琉球大学には3ケタの合格実績を出していますが、早稲田へは6人、慶応には2人でした。国立大学といっても日本には99校もあります。地元の受験者が圧倒的に多い国立大学もあれば、全国区であり日本中の優秀な生徒が受験する大学まであるわけです。結局国立も、よくよく調べると私大と同じく多種多様なのです。

■結局、学問に王道はない■

 大学進学状況における地域間格差は地元の国立大学に多少見られることがわかりました。旧帝大や難関私立大学などへは、難関高校の成績優秀者しか合格を勝ち取っていないということも事実であると分かりました。学校数が多い地域では三番手、四番手の学校が大学受験実績において逆転するという現象が多少見られるにせよ、それはごく僅かの例外です。学校数が限られた多くの地域では高校進学時に大学進学先まである程度決まっているというオーバーな言い方もできます。事実、地方出身のお母様から「高校の名前を聞けば中学での成績もある程度わかるし、その後の進路も大体予想できる」とお聞きました。以前からお話ししてきたように、目指す大学があるのであれば、やはり中学から「進学を意識して」しっかり勉強するしかないようです。

■まとめ・高校受験を控えた首都圏以外に帰国する場合■

 3月から3回にわたり「地方の受験事情」を調べてきました。調べれば調べるほど「難関」といわれる大学へは、地方と首都圏ということで差はなく、いずれの地域であっても難関高校からしか道はないと断言できるのではないかと思えます。中堅高校以下から早稲田や慶応へ何人も進学しているということは、どの地域であっても見られませんでした。首都圏にお帰りになるご家庭にも当てはまることではありますが、特に地方にお帰りになるという場合、もう一度以下の点をお考え下さい。

 <1>有名難関大学を意識するのであれば、TOP高校進学を考えるべき。
 <2>地方の国立大学希望であっても中堅高校以下からは難しい。
 <3>地方のTOP高校は公立が多く、よって5教科入試が基本。
 <4>公立だと内申比重も高いので中1から成績を取ることが重要。
 <5>補講などを実施してくれる学校は限られている。

 こうなると、前回号の結論である「地方に帰る生徒こそ海外であってもしっかり勉強しておかなければならない」ということになります。「最低限のことをやっておけば何とかなる」ということは、帰国直後の軟着陸には有効ですが、その後の進路を考えるときには「危険な選択」といわざるを得ないということになります。「いや、大学進学は本人が考えるもの。中学は公立だし、その後高校生になってから本人が頑張りさえすればいい。」と「子どもたちの自主性」に期待されますか。では、進学した学校の生徒のうち、半数以上が就職希望者である学校に行かせたとしても「進学したいのなら勉強しろ」と言い切れますか。その高校に行かせたことで、進学のチャンスをつぶしてしまったとは考えられませんか。彼らの人生も一度しかありません。今や大学受験は「現役合格」が主流です。そうなると、やるべき時は自ずと決まってきます。それを逃すと大変な負担を本人に背負わせることになります。例えば大学付属高から他大受験をすることが、いかに大変なことかご存じですか。ご存じであれば、進学校以外から大学受験をするということは、それ以上の苦労があると容易に想像できるはずです。ましてや目標大学が難関大学であれば、お子様が相当強い意志を持ち合わせていなければ成功しません。数多の誘惑を振り切り、周りに感化されず、目標に向かって一心不乱に頑張ることが可能ですか。もし、既に「そういう子供である」といえるなら、可能性がもっともっと広がるはずの今の時期に、なぜ100%のことをやらせないのでしょうか。

 近年では地方においても学級崩壊・学力低下が広がっていると聞きます。帰るのは地方だから、公立だからと悠長に構え、いざ帰国後通わせてみたら現実に気がつき、慌てて進学準備を始めたというご家庭のお話も良く耳にするようになりました。子どもたちを取り巻く教育環境は刻々と変化しています。地方であっても不登校率の上昇や進学事情の変化が見られます。どうか、そのことを分かって下さい。そして一刻も早くお帰りになる地域のことを調べて下さい。一刻も早く、それをもとにした我が家の進学計画を作り行動を開始して下さい。

 半年程度で子どもたちの学力を変えることは出来ません。これ以上海外に生活するということを言い訳にした「進学における犠牲者」を増やさないで欲しい。本当にそう思います。

 

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