まえのページにもどる> <もくじにもどる

2003年9月号 「個別指導方式の考え方 その1」

『ここが違う! 一斉授業と個別授業の差』

■プロローグ■

 以前は首都圏と大阪中心にだけ展開していたようにみえた個別指導塾。ところが最近は福岡や仙台などの主要都市でも目立つようになってきました。
 大手の塾では、いままでの一斉授業に加え、個別スタイルでも授業が受けられるようにコースを増やしているようです。海外の塾でも講義形式の一斉授業スタイルだけではなく、個別授業も展開されてきました。「個人にあった」という視点から、国内でも海外でも人気の授業スタイルになりつつあります。特に「一人ひとりの教育環境が違う」海外生であれば、個別授業形式は魅力的に見えます。「我が家にあわせた受験準備が可能ではないか?」「我が子が苦手な分野を特訓してもらえるのでは?」「日本の教育に軟着陸するには最適な方法ではないか?」と、個別授業に期待がふくらむご家庭が多いようですが、実のところ、個別授業は一斉授業と『どのくらい』違うものなのでしょうか。
 今回は、一斉授業と個別授業の違いを徹底比較・分析してみました。来月はさらに一歩進んで、使い方の例を分析してみます。

<クラス編成>

■一斉授業■
 一般的に学力別クラス編成です。その塾の1学年の人数が多ければ多いほど多くのクラスに細分化され、その結果自分とほとんど同じ学力の集団の中で勉強することになります。1クラスあたりの人数は、塾によっても違いますが、20人を超えることは少ないでしょう。だいたい10人程度が平均的です。大きな塾では、上位クラスから下位クラスまで10クラス以上あることもあります。逆に小さな塾で、クラス数もコース設定も1つしかない塾であれば、在籍生徒の学力の幅が大きく、授業の進み具合に問題がある場合もあります。塾である以上は最低限、2クラスまたは2コース以上開講しているのが理想です。

■個別授業■
 1つの教室で色々な学年、レベルの異なる生徒が一緒に勉強する形式が普通です。科目も個人によってバラバラ。多くの塾では個人毎に「ブース」と呼ばれる仕切り板によって隔離され、自学自習に近い形で勉強を進めていきます。このことから、クラスというものは存在しません。クラス替えもありませんし、「進学コース」「選抜コース」というレベル分けもありません。
 enaでは仕切り板を使うのではなく、教室に1人の生徒と1人の教師を配置します。塾における家庭教師のようなスタイルですから、仕切り板の向こう側にいる人のことを意識することはありません。

<授業スタイル>

■一斉授業■
 基本的に講義形式です。先生がその単元の重要ポイントを黒板に説明し、生徒はノートを取ります。このとき説明されるポイントやテクニックが、塾に通うことのなかで最も価値あるものです。このことから、先生が、説明を聞かせる時間とノートを取らせる時を分けているかがポイントです。いまの子供たちには、聞きながらノートを取るということはがなかなかできません。それを先生が分かっているかが問題です。ただしゃべりまくっているだけの先生は、実は子供たちのことを考えていません。
 その後、先生が例題を使って問題の解き方を説明し、類題を生徒自身が解きます。それを解説するというのが一般的な流れです。類題演習などが宿題に出されます。

■個別授業■
 多くの場合、生徒3〜5人に1人の先生がつきます。(ただしenaの個別授業はマンツーマンです。)自習形式で問題演習をします。一斉授業なら、問題を解くスピードに個人差があるために、早くできすぎて時間をもてあましたり、逆に途中で来られたりすることもありますが、個別授業は自分のペースで出来ます。問題が解けたら、先生に見てもらって解説を受けます。解らない場合や不正解の場合は、どこでつまづいたのか途中計算式まで詳しくチェックしてもらうことが出来ます。
 ただ、このことは少人数制をうたう塾では一斉授業でもしていることです。enaでは、一斉授業のクラスでも一人ひとりの机をまわって解き具合を見るようにしています。
 また、神経質な生徒にしてみると、ブースの仕切り板の無効が気になるという事もあるようです。一斉授業でクラスが一丸となった場合は気にならないことが、個別の教室では気に障るということもあるようです。

<先生>

■一斉授業■
 基本的に年間を通して同じ先生が担当します。同学年・複数クラスを担当していることが多いので、クラス替えをしても自分のことを知っていてくれる先生に教わることが多いです。そのため、生徒一人ひとりの状況に合わせて長期的な視野に立った指導を受けられるのが魅力です。進路設計が特殊な海外生の場合、このことはとても大きな魅力です。海外校舎の場合、一人ひとりが特殊な教育環境下におかれるため、一人の先生が長時間担当するということは何よりも貴重なことです。
 また大手の塾では一定レベルの指導力がないと授業を担当させてもらえないことがあります。さらに研修制度が充実している塾が多く、こうした塾の授業内容には一応の安心感が持てます。個人で経営している一斉授業の塾には、こうした研修制度などはありませんから、その塾が入試問題研究や指導法研究にどれ位の時間を使っているかが気になるところです。

■個別授業■
 塾の正社員として専任の先生もいますが、先生のほとんどが大学生などのアルバイトだと思って間違いありません。もちろん大学生でも熱心で優秀な先生もいます。塾が授業内容・指導法についてきちんと研修しているかによって先生の質が大きく違います。このことから、塾によって先生の実力にはかなりの格差が見られます。同じ塾でも分校によっての差も大きい場合があり得ます。人気の先生のコマは早くに埋まってしまうということも多々見られます。
 また、曜日・時間帯によって先生が違うことが多く、毎回の授業で先生が替わることもあります。こうした場合は、生徒毎にカルテが作られています。これにより先生間の連絡は取られていますが、一斉授業ほどの一貫性は望めないのが現状です。逆に、先生を指名したり、子供に合わない先生なら即座に替えてもらうことなどは容易ですから、先生と生徒の人間関係が原因で成績が上がらないケースは少ないようです。  

<指導科目と授業時間>

■一斉授業■
 中学生なら英数国、小学生なら算国がワンセットの形が一般的です。理社は多くの塾でオプションですが、生徒の履修の仕方は地域によって様々です。例えば首都圏の小学生の場合、多くの生徒がオプションにもかかわらず理社を履修します。地方の中学生は、中3になってはじめて5教科受講をすることが多く見られます。
 単科受講が出来る塾は少ないのが現状です。授業のある曜日・時間帯が決まっていて、各教科とも週1回に90分から120分程度の授業時間が標準的です。授業を休んでも振り替えの授業はされないのが普通です。苦手な教科だけ時間を増やしたり、科目毎にクラスを変えることができないなど、ある意味で融通の利かない面があります。それでもenaの海外校舎は海外生の特殊な教育環境を鑑みて、単科履修が可能となっていたり、学年を超えた履修を可能にしたりしています。

■個別授業■
 単科受講がほとんどです。曜日・時間帯も選べる塾が多いようです。また、苦手な科目の授業だけを増やしたり定期試験前だけ普段より授業時間を増やしたりすることも出来ますから、柔軟的といっても良いでしょう。授業時間は一斉授業と同様に1コマ90分程度が標準的なようです。  

<カリキュラムと教材>

■一斉授業■
 塾側が決めたコース、クラス毎の年間カリキュラムに沿って勉強します。年度途中で数回クラス替えを行う関係上、クラスによる違いはほとんどありません。ただし、コースが違う場合は、全く違います。教材まで違う場合もあります。
 教材は、同一コース内であれば上位クラスから下位クラスまで共通のものを使用している塾が多く、この場合、クラスによってテキストの問題を選んで問題演習をしたりします。例えば上位クラスは難問を含めて全問、下位クラスはテキストの基本問題のみというような使い方です。また、副教材のプリント類を上位クラス用と下位クラス用に替えるなど工夫が見られます。
 カリキュラムは、進学塾とうたう塾であれば「受験」を基準にして組まれています。カリキュラムに乗っていれば、一応の内容は押さえられるというものです。また進学用のコースであれば、自学年の準備としてのカリキュラムが組まれています。基準は文部科学省の指導要綱が基準となります。つまり学校の教科書ですね。この流れに沿って授業が行われます。

■個別授業■
 生徒のレベルに合わせて各科目の目標を設定し、教材も学力にあったものが選ばれます。つまり一人ひとり教材が違うわけです。多くの塾ではプリント教材にしています。カリキュラムも個人の目標、到達度に応じて、柔軟性を持ったものがあります。簡単にいえば、カリキュラムは存在しません。周りを気にせず、自分のペースでやれる反面、目標設定をしっかりしておかないとただ流されるだけという危険性があります。
 授業をはじめる前段階で、入念に計画を練っておくことが必要です。親切な塾では、このあたりの計画はきちんとアドバイスしてくれます。いい加減な塾は、ただ勉強しにこさせるだけで、何の計画性もありません。  

<補習や補講>

■一斉授業■
 均一な指導では、どうしても理解度・定着度に個人差が出てしまうため、授業終了後などに居残りでの個別指導や授業時間以外の補習・補講をすることがあります。実は、これらに力を入れている塾は少なくありません。なかには初めから時間割のなかに自習のコマを入れておき、必ず先生が付いて個別に面倒を見ている塾もあります。
 多くの塾は補修・補講は授業の延長上に位置するものですから、費用はかからないのですが、なかには「土曜補習」「日曜特訓」という名目で費用を徴収する塾もあります。

■個別授業■
 原則として行っていない塾が大半です。個別授業では1コマ単位の授業料で計算されますから、補講するということは授業を受けるということになります。よってその分費用がかかってしまいます。  

<テスト体制>

■一斉授業■
 年間を通じて毎月行われる月例テストや単元終了に行われるカリキュラムテスト、確認テスト、小テスト、志望校判定テスト、合不合判定テストなど、様々なテストが用意されています。テストによっては順位・偏差値が出るため、成績の推移が把握しやすくなっています。また、先生側としては過去の卒業生のデータと比較することで、勉強法のアドバイスや志望校の決定のアドバイスをすることができます。
 特に海外にいると相対的な学力把握を忘れがちなので、こういった「学力を客観視する」テストのメリットは大きいと言えます。こうしたテストは授業内や日曜日などを使って行われます。成績表は生徒経由で配られることもありますし、保護者宛に郵送されることもあります。

■個別授業■
 単元が終了するごとに定着度判定テストを実施している塾もありますが、一人ひとりの進度や内容レベルが違うため、全生徒統一問題テストは不可能です。そのため、テストを意識付けにすることはむずかしく、また志望校に対してどのレベルに来ているかの「相対的学力把握」をすることが不可能です。これを求めるときは、外部模試や会場テストを別に受験しなければなりませんし、そのデータを自分自身で分析しなければなりません。  

<授業中の雰囲気>

■一斉授業■
 同一レベルの生徒が同じ教室で机を並べています。良きライバルとして互いに切磋琢磨する雰囲気があります。海外校舎だと、どうしてもクラス人数が少ないですから、競争心が芽生えにくいのですが、それでも個別授業より白熱した授業展開になりがちです。

■個別授業■
 家庭学習の延長のような雰囲気です。家庭教師の先生に教室で見てもらっているという感じです。enaの個別授業はマンツーマンのため、まさにコレです。生徒各自のペースで勉強が進みますからアットホームな面はよいのですが、その反面、一斉授業のような競争心は育みにくい環境といえます。受験までの限られた期間に個別授業を使うのなら、各自で向上心・競争心を養う工夫をしておかなければなりません。  

<保護者との連携>

■一斉授業■
 多くの塾では少なくとも年に数回、保護者会や面談を実施しているようです。普段、継続して授業を持ってもらっている先生ですから、長期的なスパンでの目標設定や、突っ込んだ相談をすることもできます。もちろん、保護者会や定期面談の他にも、随時電話・Eメールなどで家庭と連絡を取り、些細な子供の変化を含めて、情報交換を密に取っている塾は少なくありません。enaでも毎月「あゆみ」を使ってご家庭との連絡を取るようにしていますし、Eメールなどでの学習相談なども受け付けています。

■個別授業■
 保護者会などが行われるのは一斉授業をしている塾と同じですが、懇談をしてくれるのは教室長クラスの責任者がほとんどです。前述の通り、授業担当の先生は複数人になります。すると、子供本人の授業をほとんど持ったことのない、校舎責任者の先生が相談を受けることになります。一応、書類等で生徒の状況は把握しているとはいえ、アドバイスの的確さという点では、若干ぼやけた感があります。

 

 ※さて、一長一短の一斉授業と個別授業。その賢い使い方は???来月に続く。

 

TOPへもどる