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2004年12月号 合格判定模試の上手な活用法

■今までとは、ここが違う■

 アメリカ現地校の新学年が始まって3ケ月。新しい学年、新しい環境、新しい生活には、もう慣れたころだと思います。小6や中3の受験生であれば「現地校が大変!」などといっていられない時期です。優先順位を間違えている人はいませんね。「いやいや、受験生といえども、現地校のことが最優先。。。」とおっしゃる方は、即刻この読み物を捨ててください。以前から、あらゆるところで触れていることですが、私たちの立場はアナタと異なるものです。不愉快に思われる前に、この紙を捨てた方がよいと思います。
 さて。日本の受験カレンダーでは既に「帰国枠受験開始」の時期なのです。海外入試を実施している学校では、早い学校だとサンクギビング明けに試験があったりします。首都圏の有名中学帰国枠試験は12月の上旬から始まります。
 このことから、11月には既に「帰国枠受験直前講習」が開始されています。enaだと帰国生が多く通うena渋谷校で開催されています。
 受験生であれば、既に具体的な成績把握ができていることと思います。いわゆる「偏差値」による成績把握です。この模擬試験による成績把握は、日本では9月から熱を帯びてきます。というのは9月に入ると偏差値だけではなく「合否判定のための模試」が本格化するからです。算数の偏差値何点だけではなく、○○高校の合格率は何%というようなデータが出てくるわけです。
 合否判定模試は、今までのテストとは全く違うので要注意です。何が違うのでしょう?何に注意したらよいのでしょう?
 志望校を決定する最大のデータとなるのも、この模試と言いきって良いでしょう。志望校合格の可能性が具体的な数値で出てくるので、つい子供も親も熱くなりがちです。 合否判定模試などを受験するときには、どのような準備をし、どのような心構えが必要なのでしょうか???
 今月は、志望校合格判定模試の使い方の例をご紹介します!  

■相違点その1・総合問題である■

 まず、今までのテストは一定の学習範囲から出題されていました。いわゆるカリキュラムテストです。enaの模試もそうですね。試験範囲が公表されていることが多く、それによって試験前に準備することが可能でした。「ふむふむ。来週のテストはここからここまでの漢字が出るのか。覚え直しておこうっと。」こんなことが可能だったわけです。
 ところが、合否判定試験には試験範囲がありません。総合力を試すものになります。前もっての「具体的な」準備は不可能です。しかも出題範囲は今までの内容すべてであり、それは膨大な範囲となります。6年生の範囲だけが出題されるのではありません。
 夏休み明け、急に成績が落ちる生徒がいます。これはまさに「カリキュラムテスト」のみに慣れていた生徒のことが多く、こうした生徒には実力・総合力が身に付いていないことが多く見られます。
 夏前までは成績が良かった生徒で、秋からの模試から急に成績が下がってしまう生徒のことを『四谷バカ』と呼んでいた時代がありました。四谷大塚進学教室のカリキュラムは1週間単位で作られています。塾生はこのカリキュラムに従って勉強していきます。そして1週間ごとに単元内容が把握できたかを試す「カリキュラムテスト」を受験するのです。それを繰り返していくわけです。
 その場その場ではきちんと理解していても、覚え続けていられない生徒がいます。定着させることが不完全で、ましてや使いこなすレベルには到底達していない生徒がいます。そうした『その場限りの努力しかできない生徒』のことを「四谷バカ」といっていたわけです。試験カリキュラムが公開されている塾の模擬試験であれば、いまでも「四谷バカ」に当てはまってしまう生徒が多々見られます。
 今までの「カリキュラムテスト」の結果が良くても、安心は決してできないと思ってください。実力勝負の本番では、アナタの力は通用しません。  

■相違点その2・試験や会場に慣れる■

 海外に暮らすものとしては、日本の模擬試験を海外にいながら受験できるだけで十分ありがたいと思ってしまいます。日本にいるライバルの中で、自分がどのくらいの成績位置にいるのか客観的に把握することはとても価値あるものです。ましてや合否判定模試を受験できれば具体的な数字(偏差値や合格率)を使って進路を考えることができます。通信技術の向上のおかげで、こうしたことが地球上のどこにいても可能となったわけです。
 しかし、模擬試験の価値は数字データだけではありません。普段一緒に勉強していた仲間では『ない』生徒の中で試験を受ける。例えばこれに価値があります。日本であっても普段顔見知りの友達の中で模試を受けても緊張感にかけます。ましてや海外であれば、狭い狭い日本人社会です。何をするにも同じ顔の集まりです。同じ日本人同士ということもあり、緊張感は皆無に等しくなります。
 そこで一時帰国のときに模擬試験を受けに行ってみる。そうして「いつもとは違う雰囲気の中」で受験してみる。緊張感を味わってくる。度胸のある生徒。人見知りをする生徒。あがり性の生徒。人、それぞれです。しかし一生に一度しかない受験に「全く緊張感もなく」臨むということはあり得ません。海外に暮らすからこそ、模試を利用して「緊張感」を高める。これも大切なことではないでしょうか。

■相違点その3・志望校の決定■

 受験学年の9月以降は必ずといっていいほど、志望校の合否判定がつきます。今までにも志望校判定のある会場テストを受験したことがあるかも知れませんが、それとは比較にならないほど精度が高いものになります。ほとんどの受験生は、このデータと偏差値をもとに志望校を決定します。
 受験学年の最低1年前には「目標校」を決め、勉強していくことに対してのモチベーションを強固にする。受験学年の春には滑り止め校を含めた、具体的な受験校を選び出しておく。夏期講習の手応えと受験日程を見ながら受験校の軌道修正。そして秋の模擬試験。より正確なデータを出してくれる模試を受験し、より合格確実な志望校を決める。模試が示してくれるデータに基づいて、第一志望校合格に対しての弱点克服の勉強をしていく。
 カリキュラムに従った勉強方法とは全く違うものであることがお分かりいただけると思います。  

■何回受験したらいいのか?■

 どの学年であっても、良く聞かれる質問の一つです。この質問に対する答えは簡単です。「子供によってまちまち」という答えです。決まった回数はありません。
 スポーツの世界でいえば、模試は練習試合のようなものです。そうすると模試の受験は多ければ多いほど良いと言えます。ところが基本練習もできていない選手が試合をしても良い結果を出すとは思えません。また試合の後、対戦相手の分析や自分の弱いところの訓練をしなければ「試合に慣れた」という効果があっただけで、十分な価値があったとはいいがたいと思います。模擬試験にも全く同じことが言えます。テストを受けたら、間違いや弱点を克服するための勉強が大切です。解き直し、やり直し、覚え直し。復習が大切だということです。
 テストとテストの合間に、復習という非常に重要な勉強をするわけです。ということは、反省する材料が多い生徒と少ない生徒で回数は違ってくるということです。弱点が多い生徒、つまり反省点の多い生徒は合間を設けて受験します。復習する時間を十分に確保します。逆に反省点が少ない生徒であればすぐに次の試験を受ければいいのです。
 それでもだいたいの目安を!ということであれば、受験学年の秋以降は月に2回ぐらいというかんじでしょうか。  

■どんな準備が必要か?その1・勉強法■

 受験勉強というと、がむしゃらに過去問をやる生徒がいます。過去問勉強法は以前にも紹介しました。実は、過去問は基本的には「予習」に相当します。総合力を付けるための実践的な勉強方法です。点数アップには繋がります。点数が良ければ、より上の志望校を選べるし、合否判定もいい結果が出るものです。
 しかし過去問学習と違って、模擬試験は弱点克服のためのツールであるということを忘れてはなりません。流行の問題を知るための機会でもあるし、重要と知りながら覚えていなかったことを再認識させてくれるものでもあります。こうした観点からすると、模擬試験の準備は「復習」ということになります。それまでに受けた模試の解き直し、などは良い方法といえます。総合問題の復習=自分の弱点範囲・苦手範囲を徹底的に勉強しておくということです。  

■どんな準備が必要か?その2・重要事項■

 「友達が全くいない試験場で受験してみる」「電車を乗り継いで、遠くの受験会場で受けてみる」「志望校別の模試では、受験者層を把握する」「解説の詳しさ・わかりやすさ・受験資料の内容の濃さ・フォローの有無に注意する」こうしたことは模擬試験を受験する前に調べておきたい重要なことです。
 残念ながら海外から直接受験できる模擬試験には、これらは期待できません。選択肢が少ないですから仕方がありません。しかし一時帰国や本帰国後、日本で模試を受験する場合には是非とも念頭に置いておきたいことです。
 初めての受験会場というものは、緊張感などで思ったほど実力が出にくいものです。特に他人への依存心が強い生徒は、孤独な中での受験は大きな失敗をすることがあります。そうならないためには、何と言っても慣れることしかありません。海外に生活する生徒は、退行現象さえ見られることもあります。日々の生活は親の送迎無くしては成立しません。つまり日本国内の生徒より、非常にナイーブな生徒が多く見られます。普段の教室・普段の塾仲間という環境で模試を受けるに際しても「緊張する」「焦る」という生徒が多く見られるのです。これを試験慣れで解決しましょう。
 また、車酔い・電車酔いをしやすい生徒も、日本の朝のラッシュを経験したことがない生徒も、いつもとは違う心理状態から思わぬミスをするものです。また、大都市圏に帰国する地方出身の生徒も、都会の雰囲気に慣れておくことも大切です。「圧倒された雰囲気」で受験すれば実力の半分も出せないということです。
 特に「ソックリ模試」などでは本番の受験者層に近い状態になります。敵を知ることが、戦いの第一歩です。どんなライバルたちがいるのか、見渡してみましょう。そのライバルたちの中で、自分がどれだけの成績を取ることができるのか、試してみましょう。「ソックリ模試」などでは、その年の受験傾向・動向を予測することもあります。強気の生徒が多いのか。安全志向なのか。実際、「ソックリ模試」の雰囲気に圧倒されて、志望校を変えてしまう受験生も毎年相当いるのです。  

■模試のより効果的な利用法■

 偏差値廃止運動や推薦入試の導入をきっかけに、模試の種類は減少しました。模擬試験業者も少なくなりました。それでも、どの模試を受けたらいいのか本当に迷います。
 まず、必要なことは参加者の多い模試を受けることです。人数が多ければ、それだけ正確なデータが得られます。統計学上では、母集団が500人未満で正規分布はしません。「ソックリ模試」以外の一般的な模擬試験の場合には、例えば受験者が300人程度の模擬試験はカリキュラムテスト程度であるということです。進路指導に使える偏差値になっていません。
 次に志望校にあった模試を選ぶことが大切です。模試によってかなりのクセがあります。難関私立高校を希望しているのに、公立高校用の模試を受けても意味がありません。5教科受験をするのに、3教科の模試を受けても正確な合否データは把握できません。  

■合否判定の見方■

 例えば開成中を志望していて、A模試では80%、B模試では40%というように、判定に差が出ると、どの模試の結果を信じて良いのか分からなくなります。
 ここで合格判定がどう行われるのか、考えてみましょう。例えば9月のテストで偏差値70をとって、開成中の合格可能性が70%というケースを見てみましょう。これは、過去の模擬試験受験生のうち、9月の模試で偏差値70だった子供を選び出します。その生徒たち母集団としたときの開成中の受験者数と合格者数を出します。仮に、その模擬試験の受験者が1000人で、そのうち開成中を受験した生徒が100人で、そのうち70人が合格していたとします。このとき合格率70%となるわけです。
 もっと簡単にいえば「偏差値70だった先輩たち」のうち、70%が合格で30%が不合格だったということです。大切なことは「偏差値70でも30%は不合格になっている」ということです。
 受験生の心理というものは合格率70%といわれると、その学校を希望する生徒のうちのトップクラスだと勘違いしやすいようです。70%というのは、同じ成績の生徒のうち70%が合格したということだけです。70%の生徒の内訳は、トップ合格かも知れないし、ボーダーギリギリかも知れません。これが落とし穴になることも多いのです。「十分な力がある」と思いこんで、勉強をおろそかにするという生徒が多く見られます。
 さて、模試によって合否判定に違いがあるということを考えてみましょう。今の例でも分かるように、その模試を受けた先輩のデータに基づきます。ということは、開成中を受験した人数が少ない模試の判定ではあてになりません。その逆で、全体の受験者数が少なくても開成を受験した生徒のほとんどが受験している模試の判定は、かなり精度が高いことになります。
 これと同じく、「志望者数が少ない中学のデータ」は、ほとんどあてになりません。ある模試を受け、志望校欄に「A中学」を書いたら順位は「志望者3人中2位でした」といわれても、データとは言えません。母集団がたった3人ではデータと呼べません。  

■重要なのは順位■

 正直なところ、この合格可能性は過去のデータであって、自分の入試に当てはまるのは不明といった方が良いということはお分かりでしょう。むしろ重要なのは、志望校別の順位です。これは今現在の動向と絶対的な位置ですから、少なくとも順位が募集定員もしくは合格者数の中に入っていなければ、合格の可能性はかなり低いことになります。
 ただ、今後の模試で受験生がいつも同じ志望校を記入するとは限りません。出てくるデータは、そのテストだけの順位です。それでも入試が近づくに連れて、本当に受験する学校を志望校判定欄に書くようになるので、極端にいえば12月・1月の模試順位が、かなり重要なデータとなるわけです。  

■志望校はバランス良く■

 同じレベルの学校ばかり書く生徒がいますが、これでは無意味です。実力が定まるまでは、幅広い学校を選ぶべきです。一般には「合格可能性80%の学校を2校、50%を2校、30%を2校」を目安にしてください。そしてその後、入試日程をも考慮した学校を記入していくことになります。  

■代表的な模試とは■

 有名校には、その学校の問題に即した模試が行われます。中には、その学校受験者のほとんどが受験する模試もあります。そうした模試の結果は、かなり信頼できるでしょう。いっぱんに「ソックリ模試」「プレ模試」といわれるものです。
 それ以外の有名な模擬試験を紹介しましょう。まずは中学入試です。四谷大塚の「合否判定テスト」という模試があります。この模試は首都圏の受験生の多くが受験するといわれます。10月から合計3回「合否判定模試」が実施されます。12月のテストでは、過去2回のテストの成績を踏まえて判定されるなど、きめ細かさに定評があります。このため、3回とも受験するというのが定石です。ただし、問題レベルは難関校向きであり、しかも四谷大塚の教材で勉強していない生徒には不利な問題傾向になっています。
 日能研の「志望校合格判定テスト」というものがあります。9月から合計5回実施されます。しかも入試直前(1月)にも実施されるのが特徴的です。前述の通り受験直前の模試は本番成績に非常に近いので、正確なデータとなりやすいわけです。試験後数日で結果が返される迅速さも特徴です。結果には併願パターンや科目別の対策シートなどがつき、単に合否判定だけでなく今後の学習指針にする資料が沢山あります。
 enaの「小6帰国生模試」があります。帰国枠受験に対応した「英語」が受験科目の中にあります。算数と国語も帰国枠のレベルを考慮して作成されています。この模擬試験の受験者は帰国生だけですから、帰国枠受験だけに関しては母集団が少なくてもかなり精度の高いデータが作られていることになります。
 高校受験では、「駿台予備校」「河合塾」「代々木ゼミナール」など全国レベルの模試があります。「早稲田アカデミー」「SAPIX」そして「ena」の模試も、それぞれにクセがある模試を提供しています。
 海外から直接受けられる模試は限られています。興味のある模試があったら、海外から受験できるか直接問い合わせてみましょう。

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