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2002年7月号 「学校週5日制についてのご父母への提言」
国内ena 学校週5日制検討プロジェクトチーム

■私たちの立場■

 いよいよ学校週5日制が始まり、その影響・効果についてのマスコミ等における議論も次第に活発になってきました。私たちenaにおいても、毎日のように御父母の御不安のお気持ちが寄せられ、お問い合わせ・ご相談が相次いでおります。ここで総合的に見解をまとめる時期が来たと考え、討論資料という形でこの小論を作成しました。
 作成にあたっては、他で言われているような私立中に進むことだけを煽るような表現は慎み、冷静で慎重な立論を試みたつもりです。さらに我々自身が御父母の本音と生徒の実像に日々接している教育機関であり、中・高・大学受験におけるプロであるという特徴を生かし、ご家庭の繁栄とお子様の生涯設計の視点からの問題点を提起し、対策を大胆に提案します。
 夏期講習を目前にしたこの時期に、ご家庭・あるいはご父母間でこの小論を資料としてお話し合いいただければ幸いです。

■週5日制をどう見るか■

 先ず私たちは平成13年の「21世紀教育新生プラン」と平成14年の新学習要領の実施という一連の「教育改革」を、新学習指導要領問題と考えず、学校週五日制問題と位置付け、そう呼びます。その理由はこの改革が教育的な視点から始まったというよりは、週5日制の導入に対応したカリキュラム改訂であると考えるからです。週休2日制は世の流れです。学校の先生方とてそれが必要であることは否定できません。 しかしそれが学校週5日制、ましてやカリキュラムの大幅削減を意味するとなると、問題は大きく広がります。円周率を約3として計算する、中学校の地理で県も国も3つしか教えない、英単語の配当数が大きく減少するなど大幅な学力水準の低下が予想されます。これに対して我が子を守らんとするご父母は、すでに昨年から従来の水準で教育を行う私立中学に避難を始められています。為にこの不況下でも中学受験比率は上昇を続けています。
 これでは従来から言われていた「学力崩壊」とも言われる学力低下問題について応えるどころか、これを助長促進する可能性が大きいと言わざるを得ません。 もちろん今回の学習指導要領の改訂(注1)については多くの教育的視点からの改善が含まれていることは事実ですが、全体の本質は、となると公立学校において2日休む為の案であると考えられます。それゆえ「学校週5日制」問題と全体像を把握しています。
 この小論では問題の範囲を小・中・高校の学習に絞って議論します。enaに通塾されている御父母、生徒諸君の疑問と将来に向けての指針提起がわれわれの本来的任務であり、教育評論の任にあらず、と考えるからです。

(注1)「進んだ学力を持つ生徒に対しては学習指導要領を超えてさらに学習させる」という識者の発言がありますが、学校教育法施行規則では学習指導要領を超えた学習についてについて「各教科、道徳、特別活動および各学年の目標や内容の趣旨を逸脱したり、児童の負担過重となったりすることのないようにしなければならない。」と定めており、明確に否定しています。  

■問題の所在■

 子供たちが21世紀の競争社会において充分な学力、競争力を有することができるのか、そのような学力が期待できる教育体制をご両親がどう作るか、ということが主要な論点になるべきです。
 私たちは論点を整理、分析、討論した結果、結論的にこう考えました。「教育崩壊」「教育亡国」といわれる今回の改定であるが、必ずしも全面的に悲観的に捉えるべきでなく、教育自由化の大きな一歩として積極的に考えるべきではないだろうか、と。今回の改訂で公立小・中・高校生の学力が総体として下落することは残念ながら確かですが、家庭を単位とした子供の学力伸長の主体性を回復するにはいい機会であり、ここで問題が認識され、家庭単位で教育方針が立案され解決の方向へ進むなら、子供たちにとって必ずしも否定的な面ばかりではないと考えています。まして週6日のうちの1日が御父母、生徒に開放されたということは喜ぶべきことだと考えます。
 われわれの知見では、この改訂以前にも公立小中学校の知育における問題状況(注2)はすでに極限に達していました。「学級崩壊」と呼ばれた状況は多くの学校で存在し、そうでないクラスにおいても生徒の学力に応じて学力を伸長させるという観点からは崩壊に近い状況が存在していました。また進学についても、中学受験、国私立高校、大学受験の進路指導ははるか以前から現場の先生の手を離れ、塾・予備校の独壇場であったことは周知の事実です。
 一方競争社会の進展はめまぐるしく、とりわけ大学新卒採用に見られるように、学力のないものは企業社会の入り口において門前払いされ、その存在を否定されるかのごとくの扱いを受けています。皆様も就職シーズンを過ぎたこの時期に、リクルートスーツ姿の女子学生を電車内で見かけられることも多いと思います。enaにおいても毎年新卒を採用していますが、ここ近年志願者は増大し、本年は50倍を超える競争率になっています。enaが素晴らしい就職先になったということかもしれませんが、それ以上に大手企業が極端に採用人員を絞ったため、結果的にこちらに回ってくる新卒生が増大したということです。
 就職戦線において学歴偏重は10年以上前から姿を消しており、どこの会社においても実力主義の選考になっていますが、結果的に合格するのは一流大学出身の諸君であり、enaに在っても国公立大学、早慶大以外の大学からの就職試験合格はかなり難しくなっています。学校歴重視はなくなりましたが、企業に貢献する為の英語力、国語力、コンピューターなどの学力は当然重視されるのです。とりわけ女子において状況は厳しく、バブル時代に見られた総合職採用はほぼ姿を消し、事務や営業補助などの一般職採用がほとんどです。その一般職採用も最近は期間を数年間に限る期間社員採用が増えてきています。就職できなかった大学卒業生を対象に企業がパートとして採用する「新卒パート」も増加の兆しがあります。
 このような厳しい状況は本人とその家族にとって不名誉であり、当事者において本人の責任であると考える傾向があるがゆえに、失業率などの統計にも表れにくく社会問題とはなっていませんが、現下の女子新卒生の失業率はヨーロッパの失業率の比ではありません。留学や専攻科入学などの形をとる場合も多いので社会全体が認識するところにならないのだと思われます。
 今後の企業社会を考えますと、就職戦線の厳しさは増大するでしょう。世界経済の相互依存性が高まり、とりわけ製造業においては中国製をはじめとする製品が流入しており結果的には新卒生の就職機会を減少させています。また銀行数の減少や、コンピューターによる合理化・省力化によっても新卒生の就職機会は大きく減ります。さらに企業は厳しい企業間競争において利益を確保するために人件費削減を実施しています。新卒生大量採用は将来の社員高齢化、それゆえ高い人件費を招くため回避し、幹部候補以外はパート、アルバイト、派遣社員化することにより人件費を抑えるのです。
 問題はこのような「新卒失業」の危機感が、小・中・高校生とそのご父母にないということです。確かにこのような極端な就職難はここ1,2年のものですから、就職年齢のご子弟をお持ちにならない御家庭において御認識が欠如していても不思議ではありません。しかしそれはすでに眼前に現れている事実です。 企業にとってはそれでいいのでしょうが、生徒およびそのご父母にとってはたまったものではありません。将来お子様の社会での独り立ち、それもかなりの好ポジションを考えられていたご父母にとって、この現実はあまりに厳しいといわなければなりません。中学受験からの学校、塾にかかった費用は家庭にとって軽いものではなかったはずなのに、その効果がまったくないのですから。 この深刻な問題について、早期の認識と長期的な対策が必要です。

(注2)国立教育研究所による長期追跡調査によると同一問題平均正答率が、小学校5年生の算数20問について
1989年の58.6%から1996年の56.7%に低下している。また中学2年生の数学17問では57.8%から54%に低下している。
同様の東京理科大における小6の調査では1982年から2000年の間に68.9%から57.5%に下落している。  

■どう対処すればいいのか■

 ヨーロッパの社会においては必ずしも全員が大学入学を目指さないことはよく知られています。日本においても費用対効果の合致しない教育費投資については今後見直される可能性があります。そのような厳しい就職難が待っているなら無理をして私立中高へ行かなくとも、という考え方です。
 しかし日本とヨーロッパとでは社会構造が異なっており、料理人やカフェのギャルソンのような学歴がなくても高収入が得られ、社会的に尊敬される専門職とその職場が日本には確立していません。また日本で料理人になるには調理師専門学校に行く場合も多く、その授業料は年間200万円にものぼるのが実情です。さらにご父母における私立中学進学の動機が全体としては必ずしも一流大学進学ではなく、公立中学の「荒れ」を回避することであることも考慮せねばなりません。
 どう対処するか、を考える前に、21世紀の厳しい競争社会を勝ち抜くにはチャレンジ精神を体得し、真の学力を身につける以外にはない、と覚悟を決めるべきでしょう。次に、中期的に考えれば大学時点での国公立、早慶大学レベル合格を目標とし、中学受験・高校受験対策を講じるべきです。それが難しいことかといえば、後段で述べるように実はそれほどでもありません。「学力崩壊」と言われる現在、すべきことを着実にこなせば直線距離は目標までの距離は近いのです。早慶の付属高受験で考えれば、公立中学の英数国の内申成績はオール3から合格しています。ただしあくまでも直線距離としては、です。新学習指導要領などに足を絡め、右往左往するようではおぼつきません。

  ☆中学受験☆

 先ず中学入試をご準備下さい。大学卒業までのプロセスの中でわれわれがもっとも重要と考えるのが中学受験です。算数の計算、国語の漢字など、全ての基礎となる学力がここで養われます。直線距離で21世紀に通用する学力目標に邁進するとなると中学受験をはずすわけにはいきません。
 ただしもし合格されても入学は第1志望校だけにしてください。第2志望校以下の受験もそこまでの努力を形にするという意義はありますが、多くの場合入学はおやめになるべきです。国公立、早慶以外の大学進学を確定させてしまう、そして後ほどかけなければならない費用をいたずらに費消するということがその理由です。上位以外の私立中学入学は、寄付、制服費用など多くの付加的な費用がかかることが多いことも計算に入れなければなりません。(これらについては受験ポータルサイト、インターエデュの「私立中学受験情報」掲示板をご参照下さい。)
 中学受験で中位校合格の実力があれば、3年後の早慶高校合格はかなり可能性が高いのです。それゆえ私たちは公立中学進学を一部の塾のごとく「悪」とはみなしておりません。むしろ週5日制になり、より自主的な選択の広がった場として考えています。21世紀の競争社会を生き抜く合言葉は「チャレンジ」です。中学受験で失敗すれば高校受験で、また失敗すれば大学受験でというチャレンジ精神がなければ何事も為し得ません。

  ☆高校受験☆

 公立中学からの高校受験を前提に論を進めます。先ず早慶レベルの高校合格を中1から目指すべきです。早慶の高校では中学課程をはみ出した高1レベルの難問が出題されます。ただし満点は要求されません。年にもよりますが70%の得点で充分合格可能です。
 これに合格するには、中1から、早慶高入試レベルから逆算した難易度の高い問題を数少なく、熟考するような勉強が必要です。公立中学の中間・期末対策だけではとてもナショナルスタンダードにすら到達しません。
 逆に常にナショナルスタンダードを意識する姿勢さえ身に付けていれば、中位の諸君でも充分早慶高の合格は可能です。そのような勉強をしていない諸君にとっては、いくら学校の成績がよくても見たこともない問題が出るのですから合格は大変難しいでしょう。早慶の付属高は計8校あります。門は案外広く開かれているというべきでしょう。
 公立高校への受験・進学についても否定しません。ただ公立上位高合格者のかなりの部分は国私立高志望の落ち武者ですから、もし公立高受験範囲の学習だけで公立上位校合格を果たしたとしたら、入学時点からライバルに差を付けられていることになります。国私立高を第一志望とし不合格の場合に公立高へ進学し、3年後に捲土重来を期するという姿勢が必要です。  

 ☆大学受験☆  

 かつて7・5・3教育という言葉がありました。小学校で7割、中学校で5割、高校で3割しか学校の授業を理解できていない、という意味です。いまや高校では授業理解率は1割を切っており、数学に至っては5%というところではないでしょうか。高校成績が優秀であるのに大学はどこも合格しなかった、という話は今やエピソードの価値もありません。
 つまり高校の学習、成績と大学受験とは何の関係もない、と覚悟しておくべきかも知れません。大学受験にとって公立高校は拘束が少ないという点でそう環境の悪いところではありません。しかし公立高校の受験生は、私立受験校のライバルたちはカリキュラム的にはるか先を走っている、という危機感が必要です。
 大学受験についても、最短距離を走ることができれば合格はそう難しいことではありません。国公立大学でさえあればいいのであれば、早くから科目を絞って学習を集中し、センター対策に習熟すれば公立高校中位から合格可能です。その理由は他の受験生が全く勉強していない、危機感を持っていない、したがって早期に気付き、努力をはじめたものは例外なく成功する、ということです。  東大や医学部は依然として受験生垂涎の的です。この合格には東大文系も含めて数学力が必須です。(注3)京大、一橋、東工大も同じです。これらの学校への直線的接近という意味では小学校、中学校から勉強時間の半分を算数、数学に当てるべきでしょう。

(注3)東大文系においても2次試験440点満点中数学配点80点。

 

 以上全体を概観しました。お気付きいただいたと思いますが、受験はこのようにチャレンジ精神を主軸に考え、公立中学、高校を忌避しなければ意外にお金はかからないものなのです。中学受験から第一志望校にのみ進学し、不合格であれば高校、大学時に再度、再再度挑戦するのですから。
 もちろんそのことは受験準備開始前にお子様と話し合われ、確認しておく必要があります。第2志望以下でも合格してしまえば、「もう苦労はしたくない」ということで入学したくなるのが受験生の心情ですので。受験の収支決算をすると、進学しない第2志望以下に支払う受験料、校納金が意外に多くなるのが一般的ですがこのように戦略をはじめから決めておきますとそのムダは無くなります。 また努力総量、学習時間総量も、このようにしっかり現状を把握されて直線的に目標に進まれると案外少なくて済むのです。しかし専門家のアドバイスは必要です。

 enaでは今後も適時このように見解を発表し、ご参考に供したいと考えています。

 

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