まえのページにもどる> <もくじにもどる

2008年7月号 「先取り学習について考える」

 

 「あまり先に先に勉強していると、小学校に入ったとき、学校の授業がつまらない、新鮮じゃなくなるんじゃないか」そんなことも聞きますね。準備をしなかった事で、失敗した!と後悔すること。反対に、先に勉強する事で、新鮮さを失わせたくないとも思える。さてさていろんな角度で考えてみましょうか。

 特に就学前のお子様がいらっしゃるご家庭で、気にされている方が多いと思います。実際は、就学前に限った話ではありません。これからのお話は、いわゆる「予習」といった少し先のことを勉強することではなく、何年も先を勉強をしてしまう「先取り学習」のお話ですから、そのつもりでお読み下さい。

 現地校の「スキップ」や海外塾の「飛び級」、日本国内の受験塾でも「学年を越えての受講」なども「先取り学習」と考えても良いでしょう。先取り学習については、賛否両論あるはずです。

 私たち塾・受験屋としては、一応、「先取り学習」賛成派です。賛成する理由としては、 「子供の持っている能力は、伸ばすべきである」と考えているからです。最初の部分についている「一応」が気になりましたか?なぜ、「一応」がつくのでしょうか?それは、「先取り学習」は、全員にはお勧めできないからです。どんな方にお勧めなのか?それは、「保護者」次第だと思っています。

 先取り学習で得るものは非常に大きいです。学校で習う内容や進度は「学習指導要領」というものに沿って決まっています。それらは、当然のことながら個人の能力に対応したものではありません。また「落ちこぼれがないように」とは書いていないけど、落ちこぼれないように配慮した控えめな内容になっていると感じます。言い方を変えれば、ほとんどの子供たちにとっては「物足りない内容や進度になることを前提に」考えられたということです。塾でなら15分もあれば説明し終わる内容を本当に丁寧に、いや、かなり「まどっろこしく」、授業時間を目一杯使ってやっていました。

 「無限の可能性や力を持つ子供たち」にとっては、これは、もったいない話です。能力に応じて、学校の枠を超えた内容だってドンドン取り組んだら良い。これが、「先取り学習」賛成の理由の1つです。

 一方、先取り学習を進めていくことで、学校の授業で習ったときに、新鮮味がなく退屈では?という意見もあります。実際のところ、どうなのか?先取り学習をしている多くの子供にとって、ハッキリ言って、学校の授業は退屈です。進学塾などで学校よりも断然はやく、そして、レベルだって高度なことを勉強している子供たちにとって、学校の授業を退屈に感じてしまうのは、おかしいことではありません。

 進学塾に行っているだけでなく、その中で優秀な成績を修めている「成績が良い生徒たちはどうなのでしょう?退屈は退屈でも、成績が良い子の退屈は成績が普通の子供よりも、退屈の2乗なのでしょうか?実は成績が良い子は違うのです!マジメ、だけではなく、何事にも真剣な生徒は、こういう所でも違いを見せてくれます。彼らを見ると、どうやら「何か」を探しているようです。これが、親の影響なのです。

 普通のレベルの子供たちは、習ったことを繰り返し勉強することを嫌います。一度習えば終わりなのです。だから、口癖のように、「この単元は、もうやった!」なんて言う。でも、実際に一度習った内容を完璧にマスターできる子なんていません。塾に通っているとしても、すでに習ったといっても、習熟度は、子供によってそれぞれ。たいていは、どこか欠けた状態なのです。それを何度か復習することで、1つ1つ補強することになり、より完璧に近づくことができるのです。(そのための復習です。それだからこそ、重視の勉強をお勧めしています。講習の意義も、当然、ここにあるわけです。)

 1回目に習った内容よりも、レベルが低い場合は、その時間の中で、自分の知識を確認したり、整理したり、誰よりもはやく問題を解いたりできるわけです。親は、このことを子供に理解させずして、先取り学習の効果なんて期待できません。子供達の「何か気づいていないことがある!」という姿勢。そんな子供達を前にすると授業をやる側としても、気合いが入って当然です。

 「この単元、もう塾で習った!聞かなくてもできるよ!カンタン、カンタン!」なんて言っている子供は、仮に学校の成績が良いとしても、広いフィールドに出たら、絶対に負けます。上には上がいて、本当のトップは、学校の授業でさえも、自分自身の補強に使っているわけです。つまり「先取り学習」と「復習」はセットと考えるべきです。復習には「学校の授業」「家庭学習」塾からの宿題」「現地校の勉強」など、すべてを含みます。「わかって当然の授業の中で、何かを見つけてこい!」と親が言えるか、そこが分かれ目です。子供は、ちょっと知っていたら、本能的に、知ったかぶりをするものです。子供が「そんなのカンタン!聞かなくてもわかるよ!」という言葉や態度を目にしたり、耳にしたときに、「この大バカヤロー!」と一喝できるかどうか。一喝して、なぜそんなに怒っているのかを説明する。繰り返しする。そうしないと、決してトップになれないですからです。  

 「今は丁寧にゆっくりさすほうがいいのでしょうか?親が教えない方が良いとわかってはいても低学年の場合はどうすればいいのでしょうか?」  

 勉強に関して親が子供に深くかかわっていけるのは、個人差はあるけど、ほぼ中学生までです。海外という特殊条件にいるからと言い訳しても、中2あたりが限界点でしょう?中3になっても、親が手取足取りやっているようでは、勉強以前の問題と言えます。

 まず、家庭学習の習慣について。日々のノルマをしっかり決めて、進めているとすれば、それはとても良いことです。現地校が忙しいだとか、旅行に行っただとかの言い訳をさせることなく、日曜日であってもノルマは消化させる。それが勉強を「習慣化」させるときのコツです。軌道に乗れば苦痛でも無い。乗せていないから面倒に思えてしまうわけです。ただ、「字や数字が汚い」場合に注意です。子供はどんな状態なのか?それを観察してください。もし、本来もっときれいに書ける子なのに、今は汚いとなれば「気分が乗ってない!やる気のない状態!」です。この状態で、1時間、1時間半、勉強することは、意味がないどころか、今後に悪影響となりますので、ゆっくりでも絶対に丁寧に書かせるべきです。決してきれいにとは言いません。少なくとも丁寧には書かせないといけませんね。その習慣が定着すれば、徐々に書くスピードだって、速くなります。勉強もスポーツと同じです。ダレた状態で練習しても上達しないどころか悪い癖がつく。家庭では、汚い字や数字を書くけど、テストになれば、丁寧に書く!なんていう芸当は、なかなかできません。

 習う内容が簡単なときは、テストだってみんなが高得点をとる。そんな状態では、我が子がよくできているのかどうかもわからない。ただ、そばで様子を見ていると、今やっている勉強には、少し力を持て余しているようではある。もし、こんな状況であれば、非常にもったいないことです。持っている力を精一杯発揮していないんですからね!子供に適度な負荷を与えてやることが、力をつけることにつながります。そこで、問題なのが「どんな負荷を与えるか?」なんですね。負荷というと、すぐに「勉強時間」とか「勉強量」と想像します。実は、「負荷」には2つあります。「質の負荷」と「量の負荷」この2つを使い分けるのです。「質の負荷」を与える目的は、「思考力」を養うため。「量の負荷」を与える目的は、「処理力」を養うため。(ここでいう処理力とは、問題をはやく解いていく力のことです)「量の負荷」を与える目的はもう1つあるのです。「持久力」を養うためです。「持久力」というのは、特に、中学受験や難関校への受験勉強には、必要不可欠なものです。気付いたら、10時間も集中して勉強できるようになってた!という力のことです。多くの方は、この「思考力」も「処理力」も「持久力」も必要なことはわかっています。わかっているのに、普段の勉強でわざわざ「質」と「量」を使い分けようという意識を持っていません。いったい今やっている勉強は、果たして「思考力」をつけようとしているのか?「処理力」をつけようとしているのか?考えたことは無いでしょう?なぜ考えないのか?それは、「質」と「量」を使い分ける本当の理由を知らないからです。使い分ける1番の理由は「子供が飽きてしまうから」です。

 たとえば、「質の負荷」とは「より難易度の高い」問題を与えることです。子供に難しい問題ばかりをやらせると子供たちは嫌がります。一方で、「量の負荷」につながる難しくない問題をたくさんやらせようとしても、子供は同じように嫌がります。結局は、どちらも嫌がる。その様子を見て「ウチの子は、やる気がない」と判断する保護者がいます。子供の修正として、普通、やる気などというものは持ち合わせていません。強制的に持たせることも出来ません。与えるものでもありません。

 そんな中で、親が知らないといけないのは「ここまでだったらやる!」という子供の『限界ライン』なのです。「もう、これ以上の量はできない!」というタイミングで、「よし、じゃあ今度はこれやろう!」と、今度は、「量」から「質」に切り換えたものを子供に与える。そして、限界に近づくとまた「量」に戻します。この繰り返しです。こうやって、質と量を繰り貸すことによって、勉強時間を増やしていくから、結果的に10時間以上でも集中して勉強ができるというのも、可能になります。これが5年生までに出来るようになっていると、受験は無敵です。塾など不要です。

 これは、例えば、受験生に長時間勉強させたい場合に、質と量の代わりに、各科目で区切って、かわるがわる取り組んだり、苦手と得意科目を交互にやっていくのと原理は同じです。ただ、この科目を交互にやる転換では、どうしても得意科目への比重が高くなります。私たちの経験上では、「量の負荷」からはじめる方がスムーズにいくことが多く見られます。  

 「勉強の先どりはどのくらいまでがいいのでしょうか?」という質問を考えてみましょう。小学校の低学年だと習う内容も簡単なため、テストだってみんなが高得点を取る。これは中学1年の最初は内容的にも簡単で皆点数が良いのと同じ。そういう状態の子供を親がそばで見ていると、今やっている勉強には、少し力を持て余しているのがわかるはずです。

 そこで、親が考えるのが、「勉強の先取り」。いわゆる「先取り学習」と呼ばれるものです。塾にいらっしゃるご家庭でも本当に多いと思うのですが、小学校低学年ぐらいだと、

 ◆5年生までの勉強はやりました!

 ◆小学校の漢字は読み書きできます!

 ◆公文で中学数学をすませました!

 などとおっしゃるご家庭も多く見られる。いったいどこまで進むのが良いのか?親としても悩むところです。ここで爆弾発言です。

 『先取り学習をしているのに、成果が出ている人は、少ない!』という事実。せっかく親も意欲的に取り組み、子供も自分の学年よりも上の勉強をすることで積極的に勉強していると思っていたのに。。。「小さいころには天才だと思っていたのに・・・」なんて、高学年になってため息をつくケースがなんと多いことか・・・そうなると、親としては、ついつい子供の能力の限界なのか?なんて諦めモードの方がいますが、大半はそうではありません。特に、低学年の先取り学習の場合、親が主導となりますので、成果のあるなしは親で決まってしまうといえるでしょう。いいですね!子供の能力の限界ではないんですよ!!では、「伸びていく生徒」と「沈没してしまう生徒」の違いは、いったいなにか?探ってみましょう。

 まず、先取り学習は多少なりとも子供への負荷になります。負荷がかかっているのに、成果が出ない!ということは、つまり、負荷のかけ方に問題があるということなのです。負荷には2つの種類があると書きました。「先取り学習」の成果の違いは、「2つの負荷の使い分け方」によるものだと思っています。先取り学習は、この2つの負荷をまとめて言っているわけですが、先取り学習をさせる親は、やらせるときに、明確にこの2つを分けて考えておかないといけないわけです。

 今までの実際にお聞きしてきた経験でいえば、回答される方のほとんどは、「質の負荷」だと答える方が多かった。みんながやらないことを先にやるのだから「質の負荷」になるはず。こう考えてのことでしょう。もし、取り組んできた先取り学習は「質の負荷」だとすれば、「思考力」を養う勉強をしてきたということになります。思考力というと少し分りづらいので、「応用力」と考えてもらってもけっこうです。では本当に、「応用力」が身についていますか?そう考えると、小学1年生で、例えば、  

◆5年生までの勉強はやりました!  

◆小学校の漢字は読み書きできます!  

◆公文で中学数学をすませました!  

 などというのは、「思考力」とは明らかに違うことに気付くはずです。これは、「量の負荷」です。親が子供にさせている「先取り勉強」の多くは、実際は、「量の負荷」になっています。ということは、「処理力」「持久力」を養うために、学校で習っていない勉強をしていたことになるのです。ところが処理力・持久力であれば、「先取り学習」でなくても、学年相等の勉強だって身につけることはできるわけです。せっかく中学数学までやった子が、小学算数の点が取れないとか、中学受験になると、てんで通用しないという不思議なことが起きるのは、まさに、この「質の負荷」を忘れてしまったからなのです。もちろん、「量の負荷」も大事です。どちらか片一方に偏った勉強は、子供の伸びを止めてしまいますから。

 「質の負荷」ってどうするのか?

 応用力をつけるためには、単元の「より深い勉強」が必要になります。日本に帰るたびに本屋さんに行かれますよね?何冊の問題集を見たことがありますか?成績が良い子の親は、本屋さんによく行きます。非常に教材には詳しいです。ここで考えてください。教材をみながら考えてください。足し算・引き算ができるようになったからといって、掛け算に進んでも意味はない!ということです。子供に「量の負荷」を与えたなら、次は「質の負荷」なのです。それなのに、足し算・引き算のあとに、すぐに掛け算・割り算とどんどん進んでいく。これは、「量の負荷」をずーーとかけていっているということです。それを親が意図して行っているのなら、それはそれで良いです。でも、そうじゃない!先取り学習が親の見栄・自己満足、子供にとっては単なる「量の負荷」だけの勉強になっている!このことが恐ろしいと言っているわけです。

 我が家に見合う「質の負荷」=「思考力」=「応用力」を与える問題集など、次回一時帰国した際にはぜひ一度探してみてください。  ただ、くれぐれも応用力を身につけさせたいがために、マニアックな問題ばかり取り組ませるなんてアンバランスなことをしないように!「量の負荷」もかけて、処理力を高める練習もしなければ、やっぱり単なるマニアックな「普通クン」になってしまいますからね。

TOPへもどる