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2002年10月号 「応用力って何だろう?」算数&数学の勉強方法

■どこまで何をすればいいのか?■

 算数・数学の勉強に関してのご相談で「親がどこまで手を出していいものか分からない」という声を毎年お聞きします。アメリカ滞在が長くなるにつれ、日本語の力が落ちることは分かり切っていること。反面、算数・数学の力は「日本人にとっては得意科目だから」と思いながらも、いざ日本の算数・数学の問題に手をつけると。。。こんなふうに油断しているところがありませんか?  

■教科書レベルであれば大丈夫?!■

 教科書改訂。衝撃的でした。教科書をごらんになった方は、本当にミニマムスタンダードであるということにお気づきだと思います。お父さん・お母さんがお考えの「教科書」というものは今は存在しないわけです。あのころの教科書は「必要なことがほぼ網羅されている」というものでした。だからこそ「教科書をしっかりやっていれば大丈夫」という声があったわけです。それが今は存在しないわけです。
 はっきり言いましょう。進学をするにふさわしい者が持つ学力というのは、教科書の問題さえ出来ればいいということでは決してありません。それでは準備不足といわざるを得ません。このことは入試問題(通常過去問といわれるもの)を見ればよく分かります。たしかに教科書内容を元にした問題ばかりで、奇問はほとんど見られなくなりましたが、それでも教科書レベルとはいいがたいものばかりです。ましてや有名難関校であれば独自の、工夫された問題ばかりです。具体的にその工夫を見てみましょう。  

■情報整理能力が問われる■

 近年の中学入試問題は、単純に計算力だけで答えを出す問題ではなく「考える力」を問う問題が中心となっています。これは上位校ほど顕著な例で、途中の式や考え方や図などもきちんと書かないと得点できない学校があります。
 入試問題を分析してみると、問題の質から見て難問や奇問が増えているとは思えません。一見複雑そうに見えても、一つ一つ解きほぐしていけば必ず解答にたどり着くように工夫された問題が多くなっています。結局学校側はこういった「考え方の筋道」を見ていると言っても過言ではないのです。こうしたことが訓練できる材料は、新教科書にはありません。新教科書の基本コンセプトは、誰でも満点が取れる問題を配列し教室の中での学力格差をなくそうという発想です。日本人が得意であったはずの「大量にドリルをこなす」ということさえ削除されています。  

■目に見えないモノが難しい■

 入試問題で応用問題として扱われる単元を見てみましょう。中学入試でも高校入試でも「数列の絡んだ規則性」「場合の数」「比を使った相似」「立体の切断」などが近年では多く見られます。

 共通していることは、やはり機械的に計算だけで解ける問題ではなく、抽象的な概念や頭の中でイメージをふくらませることが必要な問題だということです。

 なかでも子供たちが最も苦手とするのは、場合の数と立体の切断です。例えば場合の数では、順列・組み合わせの公式を組み合わせて求められる単純問題ではなく「書き出し」という作業の情報整理を要します。樹形図などを利用してあらゆる場合を考えていくわけですが、書き漏らしの不安が常につきまとい、正解かどうかの感触が全くつかめないところに難しさがあります。立体切断についても同様で、その場で実物を切って確かめることが出来ないので混乱してしまうようです。近年の入試問題からは単純な相似(比を利用するだけの問題)が減りましたが、逆に立体図形からの出題、特に切断や円錐に関する問題が目立っていました。

 子供たちは「計算や作図を使って、今、目の前で、直接確かめられないモノ」に対して苦手意識を持っており、入試ではこれが想像できるか否かによって差がつくわけです。こうしたことに対処するには早い時期から「感覚」を育てる必要がありますし、同時に作業することに対して「めんどくさがらない」姿勢を作る必要があります。  

■徹底したパターン学習■

 良くあるモノですが、立体の糸巻き問題は展開図で考える。最短距離は直線化する。そういったことを知らないと解けなかったり、非常に時間がかかったりします。いわゆる解法のテクニックです。大手、搦め手ということを考えよということです。

 そこで必要なのは徹底したパターン学習です。これにより「この問題はこうして解く」という解法をマスターしておくのです。これが補習校や帰国子女用の通信教育教材で使われている「教科書レベルの問題」などでは、数が限られてしまっているのです。

 問題を見たときにどういう手順で解くかを見抜く力は、徹底したパターン学習からしか生まれません。これには、繰り返し学習が非常に重要になってきます。

 「ただただ様々な問題に数多くあたればいいと言うことではありません。例えばスポーツの練習は、同じ動作を何度も繰り返しますが、算数・数学も同じ。パターン別の解法が自分の血肉となるまで繰り返さないと意味がないわけです。算数・数学が苦手だという子供たちには、これが出来ていない(またはそこまでしていない)生徒が多いのです。その場では「わかった」というけれど、模擬試験などでは点数がとれない。これは、結局、一通りやっておしまいとなっているわけです。覚えていないんですね。これでは意味がありません。

 また解答に至るまでの過程も大切です。「何かよく分からなかったけど、、答えが合っていたから良い」という勉強では意味がありません。模範解答と解き方が違うからと言ってすぐにバツにしないように。算数・数学は登山と同じで、解答にたどり着く道はいくつもあるわけです。わからない図・式が出てきたときも、なぜその図・式を使っているのかをも考え、納得するまで取り組みましょう。一問一問にたっぷり時間をかけることがポイント。この経験を蓄積することが、応用力を付ける第一歩となります。

 勉強を見られるお父さん・お母さんにお願いしたいことは、正解に至らなかったと言って決してすべてを教えないで欲しいと言うこと。子供たちは難しい問題に挑戦しているわけですから、はじめは解けなくて当たり前です。寧ろ手伝ってしまうことによって、パターンを記憶する前に答えだけに目がいってしまうこともあります。思考訓練をするはずが、していないことになるのです。実はこうしたご家庭、とても多いのです。宿題はカンペキなのに、復習テストではボロボロ。まさに、このパターンです。これではいくらやっても成績は伸びません。子供たち自身が苦しんで、答えを作り出していくことこそが思考訓練です。やり方からなにから教えてしまっているのであれば、訓練にはなっていません。  

■ヒラメキとは何か■

 「算数・数学の応用問題を解くためには、センスやヒラメキが必要だ」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?

 ある意味では、問題を見た瞬間に解き方が分かることが、ヒラメキに通じるところがあるといえます。しかし、もって生まれた素質であるかというと、決してそうではありません。

 ヒラメキは、必ず過去の経験や体験に基づくモノです。やっぱり努力に勝るモノはないのです。ただし、年齢的に、やる要領や向き・不向きなど個人差がありますので、具体的な内容については素人判断しない方が得策です。大切なのは算数・数学が苦手だといっても、決して諦めず日々の努力すれば必ず実ると言うことを忘れないで下さい。15歳の壁という言葉があります。これは算数・数学は15歳(すなわち高校受験)まではやった量に成績が比例すると言うことです。壁を上れた者はその後の数学も一安心できる。逆に15歳までの間に手を抜いてしまったら、そこで終わりということです。ヒラメキと言うことではなく、あくまでも訓練だと言うことを忘れないでください。  

■計算力は低学年のウチに■

 注意しておきたいことは入試では時間内に解くスピードが要求されていることです。いくら解き方が分かっていても、計算や作業に時間をとられて見直し点検の時間が無くなってしまうと、試験の場合など、合格は厳しくなります。

 したがって演習問題を使って思考力の訓練をする前に、できるだけ低学年のウチから計算力を付けておきましょう。それもいかに速く・いかに正確に解けるかという訓練です。これには「今日は100問やる」というよりも「15分間で何問出来るか」という時間で区切った練習の方がより効果的です。

 問題の難易度によって多少の差が出ますが、毎回の問題消化数を記録しておけば自分の計算力アップが目で確認できるので、勉強の励みにもなります。小学生であれば4年生ぐらい、中学生であれば中1のうちから、毎日の計算練習を習慣づけておくことが必要不可欠です。  

■普段の生活の中にヒントが■

 こうして考えてみると勉強を見るお父さん・お母さんに要求されていることは、できるだけ早期から子供に物事を筋道立てて考えさせる訓練をさせることといえるのではないかと思います。これは机に向かってする勉強より、むしろ日常生活の中に取り入れるべき内容が多くあります。

 例えば「立体切断」の訓練では、外出したときに見かけた建物の切断面を考えさせる、食事の準備時にジャガイモを子供に、いろいろな角度から切らせてみるなどが、コレに当てはまります。

 最近の少子化に伴って、お子さんを非常に大切に育てられるご家庭が増える一方、子供が要求していないことまで与えてしまうケースも多いようです。何事も上げ膳据え膳では、子供の思考する芽を摘んでしまうこともあり得るのです。物事を主体的に構築する力は、体験を通して生まれるわけですから、出来るだけ子供にやらせてみることが一番の訓練です。

 分からないことを聞くという姿勢は大切なこと。ただ聞けばいいと言うことではありません。現地校生活になれてくるとちょっと考えれば分かりそうなものまで質問したがったり、全く関係ない事柄まで質問する傾向が見られます。これは心理学上で言えば明らかに退行現象の一つです。「どこまでが分かって、何が分からないのか」をはっきりと言える子供でなければ論理的に考える力は付いていきません。

 塾では問題演習を通して論理的思考訓練をしているわけですが、その前段階において家庭での日常生活でも出来る訓練は沢山あるのです。  

■上位学年の内容も出題■

 中学入試と高校入試の大きな違いはココです。前者が質より量、スピードを要求しているのに対して、後者は量より質を重視しているわけです。難関校ほど解くのに時間がかかる問題が多い。特に6ケ年一貫教育の学校で高校からの募集をしている場合などには、高校範囲の出題をすることが珍しくありません。これは先の大学入試に向けて、内部生が先取りしているから、入学後、授業についていける生徒をとりたいという学校の狙いがあるわけです。

 受験勉強で高校までの内容を押さえなければならないかというと、決してそうではありません。計算問題を例にとると、レベル的にはお父さん・お母さんが高校の数1で習ったような問題で「中学生でも解けなくはないが、手間がかかって面倒」という問題です。その他の分野でも基本知識を複雑に絡み合わせているだけで、解きほぐすことが出来れば必ず解ける問題ばかりです。ということは、そういった勉強をすればいいわけです。これは「学校の教科書をやっておしまい」という勉強方法でつく学力ではありません。現地校で訓練できるものでもなさそうです。こうしたことは過去問で、実際に問題を見れば頷けるはずです。  

■図形が合否の分かれ目■

 有名難関高校の場合、難問ばかりかというと、そうでもありません。灘高など例外はありますが、基礎事項は割と解きやすくしておき、応用発展問題的な後半の問題で差を付けようという学校の方が寧ろ多いのです。難問として出題される単元は「整数に関するもの」「円」「三平方の定理」「立体切断」「内接球・外接球」といったところ。

 機械的な計算力やパターンの当てはめだけではなく、与えられた条件を整理し、いわゆるフローチャートに従って、どのように流れを掴むか、どこで自分の判断力を発揮するかというプロセスが要求されていることになります。高校受験も中学受験もこの点は同じなのです。証明問題は減っています。大学入試問題でも同じこと。それよりもいかに融合問題に対応できるかが鍵となっています。  

■基本の積み重ねが重要■

 中学受験も高校受験も結局は同じで、徹底したパターン学習により、問題を見たときに条件反射的に解き方の絵が描けるようになっておく必要があります。高校入試問題は、さらに一歩進んで基本事項や定理そのものの奥が深いために、単に知っている程度の知識では全く応用問題に歯が立ちません。それぞれの単元を深く、入試問題のレベル(場合によっては高校の知識まで)を理解していることが必要です。これらの組み合わせが融合問題として出題されることが多いので、応用問題演習をする前に必ず基本知識の再確認をすること。どんどん進むのではなく、一歩下がって二歩進むというのが勉強のコツです。数学に苦手意識を持たないためにも、日々コツコツと基本を積み重ねて下さい。

 また受験学年の場合には時間的余裕があまり無いので、模範解答と解法が違っている場合など、すぐに解消できる環境を整えておきましょう。時間を有効に使うことがポイントです。  

■今すぐに、真剣に取り組む■

 最近は中学受験を経験する生徒が増えてきたこともあって、中学入学段階で小学生の発想を超えた「思考力」を持つ生徒が多くなってきました。また小4で公文式などを利用して小学校課程の計算・漢字を勉強し終わっているという生徒もいます。受験をしなくても、例えば中学での内申をとるために早期から勉強癖をつけようと塾に通っている子供も増えています。一昔前の子供たちとは質が違うわけです。

 そこで注意したいのは、進学するのに必要な学力と自分の学力とのギャップ。極端な話、中学受験を小4から準備した生徒は、公立中学なら中2まで、私立でも中1の間は、特に何もしなくても、学校の授業は十分についていけます。高校受験の準備を中1のころからしっかりこなしてきた生徒は、SATのスコアも順調にのばせます。帰国時もソフトランディングしている生徒が多いのです。逆に小6になってから受験のために塾通いをし始めた生徒や高校受験の準備をしなかった高校生などは、いざ始めても空回りする時間が多く、よってなかなか成績が伸びないのが経験上の事実です。

 勉強に早すぎるスタートはありません。上位校や難関校を目指すという場合はもちろん、日本に帰るのであれば先に述べた日本の学校が求める「進学する者にふさわしい学力」を持つべきです。算数・数学は1つ1つの単元を積み重ねていく教科ですから、準備学年のうちから算数的・数学的な考えに慣れておいてください。この蓄積が応用段階で生きてきて、どんな問題にも対応できるようになるのです。

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