<まえのページにもどる> <もくじにもどる>
2003年10月号 「個別指導方式の考え方 その2」
『どう選び、どう利用するか?』
先月は、一斉授業と個別授業を徹底比較してみました。どちらの指導方法が優れているとは一概に言えませんでした。どちらにもメリットがあり、どちらにもデメリットがあることがお分かりいただけたかと思います。
そこで今月は、具体的な例を使ってケース別に適した塾はどちらかを検証してみます。<科目の成績にバラツキがある場合>
例えば海外でよく見られる「算数はまだ良いけれども、国語がボロボロになっている」というようなケースです。
一斉授業の塾では、クラス編成は主要科目の総合点で振り分けられます。その結果、授業内容が簡単すぎたり難しすぎたりということがあり得ます。必ずしも科目ごとの実力にあった授業が受けられるとは限りません。もちろん、補習・補講で補ってもらえますが、科目間格差が大きい場合など、苦手科目が授業で分からないとコンプレックスにつながったり得意科目の授業中に手を抜いて無駄に時間を過ごしてしまうこともあり得るかもしれません。
こうしたことを考えると、次のような塾の使い方が提案されます。まず、非受験学年の場合です。第一目標は、科目の実力のデコボコをなくすことです。海外生の場合、多くは国語力の安定というところでしょうか。そうなると個別指導塾のほうが適しているといえます。科目間格差が無くなったら、個別方式で続けるか一斉授業形式に切り替えるかを検討してみてください。このとき体験授業などを上手に利用することが大切です。
さて、受験学年の場合、集団の中でもまれることも成績アップには必要ですから、一斉授業のほうがお勧めです。1科目だけ極端に悪い場合は、その科目だけ個別授業で補う方法がありますが、それでもダラダラ続けるのではなく期限を決めてやることが大切です。入試は総合力であることは間違いありませんから、例えば3教科のうち、1教科だけ多少苦手というレベルであれば合格圏内に持っていくことは可能です。<掛け持ちは、有効か?>
前述の通り、ある条件の下で掛け持ちすることは成績向上のきっかけになると考えられます。しかし、根本的には、完全掛け持ちはお勧めできません。なぜなら、個別指導は、一斉授業の指導論を否定したところから出発しているからです。指導方針が違う方法を同時に進めていくと「どっちつかず」の状況になりやすく、思ったほどの成績アップは期待できません。
どうしても、という場合には、前述の掛け持ち利用例の他に次のような方法が考えられます。@一斉授業を主体として、一斉授業の内容に負担にならない程度で、補助的に単科で個別指導を利用するA個別授業を主体として、実力判定のために模擬試験を定期的に利用するB個別授業を主体に、内容が1回完結型の講習会の一斉授業を利用する それぞれの欠点を補う方法を考えてください。<性格的にノンビリしている子供の場合>
これも大きく二つに分かれます。成績不振の子供であれば、個別指導で解法過程までみっちり見てもらうと良いでしょう。もともと、個別指導論には「学習態度が確立できていない生徒を自学へ導くため」という指導軸が存在します。例えば優秀な家庭教師の指導の下であれば、こうした点をおさえながら成績向上へと導いてくれ、いずれ家庭教師から独立し、一人で羽ばたけるようになっていきます。いつまでも個別塾や家庭教師にしがみついているような状況では、本当の意味で、利用できているとはいえません。
これに対し、成績上位者であれば一斉授業の集団の中で尻をたたいてもらった方が、よい結果を生むケースが多いようです。年間を通じて一人の先生に見てもらえるのが普通ですから、状況に応じてその都度、先生から直接子供に声をかけてもらえるなど、子供の意識改革には期待できるものがあります。塾内テストでの順位や授業の緊張感など、子供自身が奮起するきっかけも多いです。こうした点から考えると、塾をコロコロ変えてしまったり、また担任がコロコロ変わるような塾では困ってしまうわけです。講習なども含めて、最低限1年間は担任が替わらないこと。これは塾としては、本来、当然のことなのです。特に海外では、ダブルカルチャーに堪えている生徒の動向を注意深く見守る必要がありますから、長期間担当してもらえることは何よりのメリットです。
その点、個別授業の場合は、自学自習が基本となるため、どうしても家庭学習の延長という側面を拭えず、向上心を育むという点では弱いといわざるを得ません。<消極的で、質問ができない子供の場合>
分からないと思ったときに、その場ですぐに解決することが成績向上の秘訣の一つです。enaでは復習ノートで質問ができたり、Eメールで質問ができたり、また電話で質問が聞けたりもします。それでも、性格的に大人しい子は、そのままに放置しがちですから、常に細かく見てもらえる家庭教師や個別指導塾のほうが向いていると思えます。ただし、これも指導者によりけりで、指導者が正しく引っ張る力を備えていないと、成績は向上しません。ただ漫然と勉強をやらせれば良いというはずがありません。
一斉授業でもノートチェックは行います。しかし大規模な塾になればなるほど、1問1問について全生徒のノートを確認することは不可能になります。1学年10クラス以上もある大手の塾などの場合、ノートを提出させても細かくは見ていません。提出したかどうかだけ、チェックされています。これに対してena海外校舎では、少人数のクラスのため一人ひとりのノートに目を通し、担任が生徒一人ひとりの理解具合を見ることができます。<積極的で、元気いっぱいの生徒の場合>
逆に社交的で環境の変化にすぐ順応できる子供であれば、一斉授業のほうが向いています。アメリカからの帰国生は明るく元気でハキハキしている。帰国枠入試をもうけている学校の先生方の多くは、帰国生に対してこんなイメージを持たれている場合が多いのです。事実、現地校に通っているというハンデを負いながらも、模擬試験の成績上位者にランクされる生徒の多くは、積極的な性格の持ち主であることが大半を占めます。逆境にめげず、むしろそれを楽しんでしまうほどの強さを持っている帰国生だからこそ、帰国生に期待されるものが「リーダーシップのとれる生徒」であるわけです。
こういった視点から考えると、積極的な生徒の場合が個別授業を受けた場合先生との距離が近すぎてなれ合いになり、かえってマイナスになるケースが多々見られます。<進学情報が欲しいというご家庭の場合>
これは、どちらが良いという明確な答えはありません。受験に対する情報収集は塾によって様々ですし、この点に関しては、個別指導と一斉指導という分け方は当てはまりません。帰国枠受験や帰国生の進学、あるいは海外での日本の勉強の学習方法などということは、非常に特殊なものです。例えば、日本国内において帰国生だけ対象とした塾など見かけません。帰国枠受験情報も、一般的ではないため情報源も限られてしまっています。
現実的に考えれば、個人塾が情報収集するのには限界があります。逆に大手塾の場合は安心できる点が多いです。日本の学校と直接パイプを持っている塾であれば信頼できる情報も多いようです。また、古くから展開している塾であれば、それが個別指導塾であれ、一斉指導塾であれ、ノウハウを相当持っていますから安心できます。
消費者の立場からすると、継続して直接指導してもらっている先生のほうが気軽に相談しやすいので、一斉授業で長い時間担当してもらっている先生に相談するということの方が良いということもいえるかもしれません。<塾に両コースがある場合>
最近、日本でも海外でも個別指導塾が増えています。私は個別指導塾といっても大きく分けて3つのパターンの塾があると思います。
第一に、一斉授業形式では生徒が集まらなくなったので、個別指導形式に替えてしまった塾。生徒が集まらなくなった理由が問題です。教師の質が悪かったのか。立地条件が悪かったのか。いずれにしても問題外の塾です。安直な考えで、今までの教育方針を変えてしまう塾は、金儲け第一主義的に経営している塾といわざるを得ません。こういう塾には通ってはいけません。
第二に、一斉授業の合間に個別授業を挟み込んでいった塾。これには更に2段階に分かれます。流行っているからと片手間にはじめた塾と、きちんと準備の時間を経て開講した塾です。片手間ではじめた塾は、システムが作られていませんから何をやっているのか不明な点があります。特に教材や指導法研究の面で不安が残ります。「勉強させておけば良いんでしょう?」というような姿勢が見える塾です。生徒カルテも準備していません。その場しのぎの授業としかいえない授業をしてお茶を濁す塾です。そうではなく、一斉授業の空き時間を利用して、補習授業を発展させた個別授業・ミニクラスを展開している場合、大概は安心できます。ノウハウは一斉授業のノウハウを生かしています。あくまでも一斉授業のフォローという形で行っているという場合が多く見られます。
そして第三に、一斉授業とは全く別チーム・別スタッフで個別指導を運営している塾や、一斉授業とは全く異なるシステムで個別を運営している塾です。きめ細やかさの点では信頼できるはずですから、このタイプであれば安心できます。ena海外校ではスタッフこそ一斉授業と同じ場合が多いですが、ノウハウなどは国内個別指導塾「マイスクールena」と同じ。つまり別スタッフ・別チームで培ったノウハウを海外に応用しているわけです。
こうしたことは体験授業を実施している塾で簡単に見破ることができます。必ず試してみましょう。体験授業さえ実施していない塾は、考え物です。止めておきましょう。<成績推移が詳しく知りたい場合>
受験・進学において、志望校決定には全体の中でどの位置にいるかがハッキリ分かる偏差値を使うのが普通です。ただしテストを受けたときの体調やテストの出題範囲によって成績は動きますから、たった1回の成績だけで判断してはいけません。数回のテストの推移、普段の学習状況など、総合的に見て判断する必要があります。
特に入試選抜方法が特殊な帰国枠受験や編入試験に対しては、間違った情報に振り回されることなく、客観的に成績を把握しておく必要があります。「現地校の成績が優秀であれば、それだけで合格できる」と思いこんでいるご家庭が、いまだに多々見られます。そのような学校は、どの受験においても存在しません。アメリカ人であってもSATが大学進学に必要なのはなぜだか、考えてみれば分かることです。広いアメリカでは学校間格差が大きく、通知票の成績だけでは生徒の客観的学力を掴むことは難しいからです。そこで全米共通の試験を実施しているというわけです。こうした全国共通の客観学力検査結果のようなものが存在しない、日本の高校受験希望者と日本の中学受験希望者では、学校が独自の物差しを使って生徒の持っている力をを調べるしかないわけです。
こうしたことを踏まえて指導を展開している塾であれば、安心できます。闇雲に勉強させたり、二言目には「現地校の勉強をしっかりやって、国際感覚を身につけてください」などとお茶を濁している塾であれば、即刻止めた方が良いと思われます。そのような塾では成績推移を把握できる力はありません。
一般に、月例テストがあったり小テストの時間があったりという一斉授業の方が、成績推移を把握しやすいといえます。的確な志望校決定がしやすい材料があるといえます。<親の負担はどちらが大きいか>
まず費用の面からいうと、個別指導塾の方が基本的に単価をコマ単位で、個別に見てもらうということで、一斉授業に比べてどうしても割高になります。もちろん、家庭教師をつけるよりは安くはなります。個別指導塾は生徒3人から5人のミニクラス形式が多いのに対して、家庭教師はマンツーマンです。さらに優秀な家庭教師だと相当な額を払わなければなりません。(インターネットで検索してみると家庭教師授業料の相場が調べられます。首都圏の場合、本当に目が飛び出るような金額を請求される家庭教師グループが存在します。)enaワシントンDC校の場合、個別授業はマンツーマンです。指導者も国内・海外における指導歴のある職員です。それでも家庭教師ほどの高額授業料を要求していません。(学生アルバイトの家庭教師よりは、高いです。)
次に、送迎について。海外校舎の場合、日本と違って生徒自身が自転車などで通塾というわけにはいきません。まず一斉授業の場合を考えてみます。通塾日が週に2日だったり3日以上だったりすると負担になることが多く、場合によっては分担してカープールしているご家庭が見られます。さらに兄弟がいる場合は、毎日送り迎えをしているお母様もいらっしゃいますし、場合によっては兄弟が同じ曜日に塾があっても、時間帯が違うため、自宅と塾の間を数回往復せざるを得ないというご家庭もあります。運転が苦手なお母様にとっては、相当きついことだと思います。(だから海外enaの時間割では通塾日数を考慮しています。)それでも多くのご家庭では、海外に住む以上、親の送迎は必須とお考えになるご家庭が多く前述のカープールを含めてやりくりされているようです。
これが個別授業であれば、兄弟で同じ時間帯に設定することさえも可能ですから、負担は非常に少なくて済みます。
家庭学習面では、どうでしょうか。一斉授業で難しい内容の授業を受けたとき、未消化の部分を家で親が面倒を見ることが多いはずです。特に海外であれば、大なり小なり、多くのご家庭で子供たちの勉強を見ているのではないでしょうか。さらに復習の管理をしたり、テストスケジュールの管理をしたりと、特にお母様の負担は相当なものになります。中学生ともあれば、だんだん親からは離れていきますので分からない問題は塾に聞きにいくようで、親の負担はそれほどでもないようです。しかし小学生の場合、お父さんをも巻き込んでいくケースが多く見られます。だからこそ、日本国内であっても、海外生の帰国枠であっても『中学受験は親の受験』ともいわれてしまうわけです。どこまで親が教えて良いものか、判断が難しい場合もありますし、教え方が問題になることもあります。(2003年5月号と2003年8月号を参考にして下さい。)
その点、個別授業では授業に無理がありませんし、テストもありません。家では定着のための復習だけ、つまりやり直しだけの勉強で済みますし、その量も、個別授業で習ってきた、自分のペースでこなしてきた問題数だけで、済むわけです。勉強は塾でやる。家ではほとんど勉強しないというスタイルになりがちですが、上手に使えば、その方法でも充分成績向上が望めます。ただ、この場合親の管理が行き届きにくい面があります。また、今の塾には個別指導塾でも一斉指導塾でも自習室などは完備されていることが多いですから、一斉授業形式の授業を受けていても、授業がない日に自習しに来て質問を受けることなどが可能です。この場合、宿題や未消化の部分を質問することもできるので親の負担は少なくて済むという言い方もできます。<まとめ>
どちらの形態の塾を選ぶかは、まず色々な塾の資料を集めて徹底的に内容を比較・検討することによると思います。「乱塾」の時代ですから、塾に通っただけで成績向上ができるとは限りません。成績向上が望める塾を探す必要があるのです。
また選択肢の少ない海外だからと、半ば諦めて選択してしまったら後々で後悔することにもなります。やり直しのきかないことだからこそ、慎重に考えてください。
少しでも我が家の教育方針に見合った、我が子に適した塾を探しましょう。
<TOPへもどる>