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2004年9月号 上手な志望校選びの心得 『進路面談について考える』
■面談の目的って何だろう?■
海外にいると教育に関する不安は多く、それゆえ相談先があれば可能な限り利用してしまうということもあります。近くに塾などがある場合、面談をしてもらうこともよく見られます。enaでは学内生に対しては、定期的な面談を春と秋と年2回行っています。もちろ、それ以外の時期でも随時受け付けています。例えば帰国が決まったときなどは、すぐに対応します。それ以外でも、例えば勉強態度などがおかしいなどといったときは随時実施します。保護者面談だけではなく、生徒を含めた三者面談もします。小さなお子さんがいらっしゃるご家庭などには、面談に来ていただく面倒を省いてeメールや電話相談などをご利用いただいています。一部、塾外生に対しても行っている無料サービスがあります。地域への還元というのも、塾の仕事の一つです。
さて、日本国内でも海外でも、春に行った面談と秋に行うそれとでは、何がどの程度違うのでしょうか。大きな違いが見られる「受験生における面談」を中心に、面談の「目的」について考えてみます。
勉強には、目標となる学校が必要です。漠然と「将来のため」といったところで、ピンときません。ピンぼけのべんきょうをするより「ここに入りたいから」といった方が、対処法も多く、具体的に準備すべきことがハッキリ見えてきます。
受験生の場合、特に秋からは志望校をより具体的に決めなければなりません。この点から考えると、塾においての面談の目的は一つです。適切な学校を第一志望校にさせることです。もっと具体的に、ストレートにいうと、「無謀な高望みを捨てさせる」「無意味な安全志向をやめさせる」などということです。受験の素人である家庭に、適切な情報を提供すること。そして、その家にとって正しい方向に向いてもらうこと。そうしたことが秋からの面談の大きな要素といえるわけです。このことから、現代の受験事情に疎かったり、帰国枠受験について精通していなかったりという指導者では、いかに「進路指導に力を入れます」といっても的はずれな面談になるというわけです。的はずれな助言に振り回され、受験に失敗するということもあります。不用意に「大丈夫ですよ」という言葉を口にする指導者は要注意です。現代の受験は刻一刻と変化します。特に首都圏であれば毎年、ある程度の変化が生じます。それを知らずに「大丈夫」とは決して言えないのです。また首都圏以外の地方では、受験制度や学校レベルこそ過去と変化がなさそうに見えます。だからこそ受験生の客観的な成績把握が、首都圏の受験生以上に大切になるわけです。そうしたことを学ぼうとせず自らの体験だけで助言しようとしたり、机上の空論・理想論だけを語ったりする指導者に騙されてはいけません。
さて、中学受験までは「親の受験」といわれます。受験生本人が考えられることに限界があり「レールを敷いて、乗せて、走らせる」までが親の役割というわけです。ところがこれを意識しすぎてしまうと志望校決定に悪影響を及ぼすことがあります。「親の我々が優秀なのだから、もっと頑張れるはずだ」「家柄を考えると、この程度の学校など受験させる価値さえない」「こんな学校ではみっともない」など、子供の実力とはかけ離れたところで親が迷っているという例などです。また「公立よりは私立の方が良いっていうから」程度の志望理由だけで、しかも『それ以上の学校調べ』をしないというケースも志望校はなかなか決まりません。こうしたご家庭と面談をしたとしても、意味のある面談にはほとんどなり得ません。親の無関心・不介入は高校受験と比較すると少ないのですが、それでも特に帰国枠受験の場合は「よく分からないから」「簡単だと聞いたから」などということから、結果的に親の無関心・不介入になってしまうことがあるというわけです。受験する本人を中心とした受験にすべき、という当たり前のことをして欲しいわけです。
■こんな家庭には厳しい面談が待ってる■
私たちが心配してしまう家庭のタイプには、以下のような例があります。
・保護者の方が、受験に対して何もお考えになっていない
・本人と保護者との意見が違う(意志の疎通が図れていない)
・ご夫婦で意見が違う
・ご家庭が生徒の実力を見誤っている
・昔の学校のイメージのまま受験をしようとしている
・帰国枠受験について誤解しているいずれにせよ、「受験で全敗してしまう」ようなことが危惧される家庭は「ブラックリスト」に載ってしまいます。
友達が受験するからという理由で受験する生徒がいます。ご家庭も「この子がそういうから」というだけで、それ以上のことを調べもせず、考えもせず。このような家庭の場合、本当にいきたい学校があるわけではないので、志望校を決めるだけでも時間がかかってしまうことが多々あります。最悪の場合、受験直前にやっとのことで決まる、ということさえ珍しくありません。受験が成功するかどうかということは、志望校決定の時期が大きく左右します。小6夏になっても決まっていないようでは遅すぎます。首都圏帰国枠受験は12月から始まるのです。一般受験よりも2ケ月も早いのです。当然、早めに決まっている方が、当然勉強に対しての基準値・目標値がハッキリしますから、準備しやすいわけです。また、その学校に行きたいという気持ちの大きさが影響します。(気持ちだけではダメですが)「この学校に行きたい!行かせたい!」と家族一丸になっていると、当然中途半端な準備にはなりにくいわけです。逆にこれらが中途半端になっている家庭に対して塾は、例えば面談を多く実施するなど対処していくわけです。強制的に考えていただくようにしていくわけです。受験に対してトンチンカンな考え方をしているようであれば、それなりに厳しい面談になることもあります。「すぐに帰国してください」「受験をやめた方が良いです」とハッキリお話しすることも、事実あるのです。一つ事例をご紹介しましょう。
中堅中学を目指す小6男子のご家庭でした。受験に積極的だったのはお母さんだけのようで、お父さんは普通に日本の塾に通っているだけとお考えだったようです。小6春の面談にはご夫婦でいらっしゃり、そこで露呈したのがご夫婦の意見の相違でした。
お母さんは「受験は子供のためですから、子供のやる気があるうちはチャレンジさせたいんです」とおっしゃいました。この生徒は小4から塾に通い始めたのですが、負担が大きかったようで、小5になってからは親にいわれて渋々来ているといった感じでした。このとき既に典型的な「親だけ受験」だったようです。私たちも当然、このことには気が付いていました。「あゆみ」やお電話などでも何度も塾での様子などをお伝えしましたが、その都度「もう少し様子を見たい」とおっしゃるので私たちも結論を出さずにいました。そして小6開始を目前に控えたある日。
実際に受験に対応できるかどうか、その生徒にとって受験することは良いことなのかどうかを検討し直していただく意味で、お父さんも含めた面談をさせていただいたのです。お父さんは「入試の意味が分かっていないんだから、受験させてもしかたがない」と断言されました。結局その場で「非受験クラス」にとおっしゃったのです。私たちとしても、生徒の疲れ切った顔・宿題をやってこない態度などから考えて、受験クラスは限界だと思っていました。事実、翌週の授業での生徒の顔はホッとした様子で、取り組むべき課題も減ったせいか、きちんとし始めました。しかし、実はこっそり受験をしていたのです。本人には、そんな気配が感じられませんでした。宿題忘れも完全に無くなったわけではなく、時折「今週は現地校が忙しくて」といいわけするような状況だったのです。英語の力が身に付いているという生徒ではありませんでしたし、準備は明らかに不足していました。およそ受験生とは思えない様子。それでも受験させたのは、母親の執念なのでしょうか。後で聞くと、お父さんは受験したことを後で知ったそうです。結果は、どこにも合格しなかったそうです。結局、公立中学校に進学したそうです。
子供が本気になれない原因の一つには、このような夫婦間の意見の相違というのがありそうです。
■何をするのか■
秋からの、受験生の面談内容は大きく分けると2つあります。「志望校の確認と是正」「勉強方法のアドバイス」などです。勉強方法のアドバイスは予想がつくとしても、志望校の是正とは、いったいどのようなことをするのでしょうか。それは、「志望校を上げさせる・志望校を下げさせる・志望校を増やす」の3つがあります。
志望校を増やすのは、受験テクニックの一つです。帰国枠中学受験の場合、12月あたりから2月までのロングラン入試です。更に最近は海外入試をする学校も出てきました。海外での入試は11月下旬に行う学校が多いようです。加えて中学受験となると帰国枠受験は一般受験とは試験日が違う学校が多々見られます。そうなると帰国枠も一般枠も両方出願しておくという手も使えます。こうしたことを考えると、中学入試の場合は「いきたい・いかせたいと思う学校はできる限り多く出願しておく」ということが定石とされます。中学入試に対して高校受験では「日本国内の一般受験の生徒と同一日に同一内容の試験」ということがほとんどですから、志望校を増やすといっても日程的には限界があります。さらに帰国枠を設けている学校が多い首都圏でさえ帰国枠のメリットは少ないといわれる高校入試です。帰国生優遇制度のない地方の高校入試となると一般の受験生のそれと何ら変わりありません。地方公立高校であれば5教科入試が普通です。帰国生であれば「内申書」に関する問題が発生することがある可能性があり、最悪の場合には出願できないということもあり得ます。この点において、帰国枠を設けている高校であれば「内申書」などに関する問題が少ない分、日本の受験生よりはるかに出願しやすく、それ故帰国生に人気の学校・不人気の学校と二極化してしまっています。首都圏の高校入試であれば、3〜4校の出願というのが主流でしょうけれど、海外からは多い生徒で10校近く出願するということもあります。
ここで気を付けたいのが、流行言葉である「二極化」です。最近の受験でのキーワードです。難関校と底辺校に人気が集まり、中堅校は不人気になっている。このことは大学入試から中学入試まで共通して言えているということです。このことに対して、「受験のレベルは年々下がっているから、難関校にだって合格するチャンスはある」「少子化に伴って、競争倍率は楽になっているはずだからチャレンジ精神を持て」と煽るだけの塾・指導者には要注意です。ご家庭が「高めの志望校」となっていることは事実です。先の見えない平成不況において「この程度の私立なら、次の受験でリベンジさせる」と、冷静な消費者の目を持つご家庭が増えたと言えます。ところが、こうしたご家庭の多くは、我が子の実力を正確に把握しようとはせず、無理に背伸びをさせていることが多々見られるのです。昨年の帰国枠入試を振り返ってみても、上位難関校に挑戦したものの、結局は滑り止めの学校に進学したという生徒が(特に男子)相当数いました。(ena渋谷帰国生クラスの受験結果より)こうしたことをも考慮しながら、志望校・受験校決定についてアドバイスをさせてもらうのです。受験が不本意な結果に終わったとしても、リベンジの気持ちを受験者本人が強く持てるように。
さて、こうしたデータ分析は模擬テストの成績を中心としています。月例テストだけではありません。小テスト、授業中に解いた問題の出来具合など、様々なテストの結果から感じることです。(受験を考えているのに模擬試験を受験しないなんて、本末転倒です!特に中学生になると客観的な成績把握は絶対に必要です。特に中学生において模擬試験を定期的に受験していないご家庭が面談をご希望されても、有益なアドバイスはほとんど無いと言っても良いでしょう。)また、長年受験に携わっていると、保護者の意気込みや子供の性格だけでも、どんな学校に進学することになりそうか、予想がつくこともあります。そうした勘と、日頃の成績や勉強態度から、適切な志望校について助言することもあります。こうした進路指導は、子供が好きだから、という理由だけではできません。偏差値などの数値だけでは決してありません。実は最後の決め手になることのほうが多いです。経験と勘を優先することのほうが多いかもしれません。もちろん、予想外の結果になることもあります。ダメモトで受けてしまった学校に、予想外に受かってしまうことなどです。むしろ、そうなって欲しいと思うときもあります。(本当は、進学した後のことを考えて、勉強させたいことが沢山あるのですが。。。まあ、それはさておき。。。)しかし私たちが感じる「今のままでは危ない」という勘はかなりの確率であたります。その勘が当たらないようにするのも、面談の目的の一つなのです。
では、私たち「受験屋」は、生徒の成績をどう考えているかについて触れてみましょう。秋からの面談、特に9月や10月初旬に行う面談は、学習方針を説明したり、学力向上についての話がメインになるはずです。非受験生であれば次学年を意識して、ということもありますからなおさらです。何をどのくらい勉強させるかを説明する材料が、生徒の成績ということになります。「ホラ、この教科はこの月で、こうなって次の月でこうなっているでしょう」という具合に説明していくわけです。そして「だから、この月の課題だった単元を集中的に復習して欲しい」というようなお話をするというわけです。逆にいえば、小4以上で模擬試験を受験しないということは、この切り口を塾の面談からもらえないということになります。もったいないですね。さて、11月以降の「受験生の進路面談」ではどうか。成績は志望校を是正するための材料にされていくわけです。 もし、ご家庭が「偏差値だけ」で機械的に志望校を決めていただくことが可能であれば、こんな楽な話はありません。ところが帰国枠は学校により受験システムがバラバラで、客観的実力をはかることがしにくい「英語」も絡んでくる。そうなると、面談は「いかに納得させられるか」ということが勝負になります。そのための材料の一つが成績表ですし、私たちの持っている「過去の実例」となるわけです。9月頃、志望校についてはピンぼけのご家庭が大半です。子供の受験など、一生のうちで何度もあるわけないですから当然といえば当然です。ところが、保護者の方は「自分は受験を切り抜けてきた」という自負がおありになる。特に海外であれば「超」もつくようなエリートのお父様・お母様揃いです。そうなると、ご自分が「玄人」とはいわずとも「素人までとは思わない」というケースが多く見られるのです。しかし実際は、親の世代の受験とはまったく状況が違うので、親の受験知識・常識は全く役に立たない。オーバーにいえば、1年後でも受験事情は変わります。特に帰国枠受験など、制度などがころころ変わりますし、学校の社会評価も年々刻々と変わるわけです。上の子供の受験常識が、下の子供には使えないということも多々見られるのです。こうした「ギャップ」が面談をこじらせていきます。志望校決定が伸びれば伸びるほど、勉強する生徒本人たちは「何を何処までやっておけばいいのか?」がわからなくなり、ダレてしまうことが多々見られるのです。
これを見越して「だまし討ち」をすることもあります。例えば9月の面談では、やる気を出させるために高めの志望校で話を進めます。そして11月あたりから、面談回数を増やして、徐々に適切な志望校へ是正していくのです。本当は9月の時に適切な学校を予測していたのです。それをストレートにいうと本人は勉強をなめてしまってたるんでしまうでしょうし、ご家庭からは「こんな学校では。。。」と拒絶されることもある。まさに「だまし討ち」なのです。
■どう対処するのか■
志望校の情報を事前に仕入れておくことは定石です。ここを志望したいがどうか、という提案が大切なわけです。秋口の面談なら、それ以降の具体的な勉強アドバイスをもらえるはずです。このアドバイスが志望校のレベルにあっているか、判断して下さい。海外の指導者の中には、現代受験事情に精通していない者も多々います。「具体的アドバイス」で、その指導者についていくべきかどうか、判断するということもできます。
さて、塾側が我が子にどのような評価を下しているのかは、実は一番気になるところです。enaでは「あゆみ」などを使って家庭に連絡しています。生徒と家庭と塾との情報共有を目指しているわけです。もちろん、保護者会や教育講演会などでも情報提供をしています。日本国内の中堅規模の塾などでは、電話営業が多いようです。しかも夕方の忙しい時間帯にかかってくることも多く、リップサービスばかりの電話も多々見られるそうです。そうなると、面談で突っ込むことには意義があるということになりそうです。普通、塾での面談というのは「全面的に信頼しています」という態度を日々とっていてくだされば、正直な話の展開になることだと思います。「塾なんて。。。」という態度であれば、塾側も構えてしまいます。当然当たり障りのない話で終わってしまうこともあり得ます。特に海外という狭い日本人社会では、どこからどう話が伝わってくるか分かりません。塾を含め、補助教育機関は上手に使ってこそ役に立つというものです。面談の出方いかんで合否に影響がでるということはまずあり得ませんが、受験準備に余裕ができたりすることは多々あり得ます。日本国内での極端な例をひとつ。。。
10月の終わり頃、三者面談の日程を調整していたときのことです。あるお父さんから電話がありました。「今後、2週間に1回の割合で面談を希望するので、予定を組んで欲しい」とのことでした。お父さんは建築家の方で、ご自宅でお仕事をされている方でした。比較的、時間には無理が利くというわけです。それにしても、2週に1度の面談を希望とは、珍しい。多すぎるなあとは思いました。保護者の方の中には、毎週のように塾にやってきては、世間話のようにして学習・進路相談をされる方は見られます。いわゆる「井戸端会議的」な責め方ですね。海外でも、送り迎えのわずかな時間を利用して「井戸端会議」をされるご家庭があります。(授業後は良いですが、授業前はご遠慮下さいね)しかし、このお父さんのやり方は違いました。もっともっと、ビジネスライクなのです。まず、面談のアポイントをいれ、塾側の予定にご自分を組み込まれました。そして、面談と面談の間の2週間に子供に会場テスト(公開模擬試験)を受験させていたのです。日本国内であれば、1週間もあれば成績表が手元に来ます。その成績表を持って面談にいらしたのです。面談のメインは、この成績の評価と今後の学習内容・方法の「調整」です。私たち塾側としても、これだけのデータを持ってこられては、それに対応した授業・課題・宿題などを考えざるを得なくなったわけです。また、面談にいらっしゃる日時が決まっていたので、こちらも十分な準備ができました。さすがは叩き抜かれた個人事業者とでもいいましょうか。私たち塾側を、上手く動かした例です。これは極論でしたが、ここまでしなくともご家庭での我が子の様子を塾側に伝えることは大切なことです。面談は、塾側からの提案を受け入れるだけの場面ではなく、家庭からも積極的にテーマをぶつけるようにしたいものです。そうして「家庭と塾が一丸になること」が、受験の成功への近道となることでしょう。
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