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2009年9月号 「やるよ」

■新学期開始

 アメリカ・現地校の新年度が始まりました。学用品も新調してもらったりして、気分も上々。ESからMSに進級した人なんて、ドキドキとウキウキが重なって、興奮状態なのかもしれません。

 日本は?2学期開始。各学年ともに、秋以降は本格的な学習内容に入ります。首都圏の子ども達の多くは、そのため、受験生ではなくとも、夏休みは夏期講習で10時間近く塾にいるということも珍しくはありません。もちろん、ストレスが溜まってしまうのは当然のこと。ストレスとも上手につきあっていくことを学んでいかなければなりません。

 アメリカとのギャップ。年度切り替えの夏休み。宿題がたっぷり出るESやMSなんて、聞いたことありませんね。本屋さんで「夏のドリル」みたいなものは売られていますが、あまり売れていない様子。でもね。アメリカでも進学塾があるんです。夏休みに夏期講習を実施している塾もあります。秋以降、PSATやSSATがあったりして、そこで高得点をとらなければならない人もいるからです。こういうところ、実は日本もアメリカも変わらないんですね。「やる人は、やる」ということです。決して「がりべん」ということではないのですが、上位クラスを目ざすのであれば、それなりにしていかなければならない、ということ。「のんべんだらりん」と過ごすことも出来る。それならば、無理をすることはない。これは日本にいても同じですね。  

■夏、どうだった?

 例えば塾の先生から「塾で厳しくやっていますので、家では勉強勉強といわず、ゆっくり過ごさせてください」なんて、いわれたこと、あります?これって、アメリカに行くとき学校の先生から「せっかくの機会ですから、日本の勉強のことなど忘れて、是非、楽しんでいらしてください」といわれ、それを鵜呑みにしてしまったことと似ています。そう「鵜呑み」にしちゃったんですね。そして帰国が迫ったときには、すでに手遅れ。最近少なくなったかなと思っていたのですが、どうやらまた、増え始めてきているご家庭があります。「現地校では優秀な成績だったので、日本の勉強も大丈夫だと思います」っておっしゃるご家庭。現地校では上位クラスだそうで、補習校にもいかず、日本の本は好きで読んでいるから大丈夫、とのこと。この夏、4件くらいだったかな、こういうご家庭とお会いしました。たいていのお子さんは、2学年以下の学力しかありませんでした。日本語力のみならず、算数の力も相当落ちています。日本からアメリカに来るのであれば、多少算数が苦手でも出来ることはあります。ほめられちゃったりします。「すげぇ!できるねえ!」って。でも、帰国するときは、散々です。日本語もダメ、算数数学もダメ、社会も理科も知らないことだらけ。でも英語があるじゃん!と思ったアナタ!残念でした。日本の学校英文法は「日本語と英語の完全互換性」を求めるわけで、日本語が怪しければ、満点は取れないようになっているわけです。そりゃあそうでしょ。ESOLやっているわけじゃあ、ないんだからね。  

■子供はどれくらいまで耐えられるのか

 小4あたりから、夏期講習で10時間近く塾に缶詰状態で過ごしたという子どもは、都内では珍しくありません。理解させて解けるまで授業内できっちり落とし込んでくれる塾であれば、家庭学習の負担は少なくなります。宿題のほとんども塾でやって帰る。質問して帰る。そんな環境をもっている塾であれば、家は寝に帰るだけということもありえます。

 ただ、単なる一方的な受身の授業や解説のシャワーだとしたら、アブナイですね。授業を受けて帰って、家で復習することなく、毎回の学習内容を未消化のまま過ごし、それが蓄積していったら・・・分からないことが雪だるま式に増えます。夏以降の成績が、全てを語りますね。講習が終わって一皮むけた子どもと、ぐずぐずになってしまった子ども。3ヶ月間の成績の推移を見れば、明らかになります。

 では「子供はどれくらいまでの勉強に耐えられるのでしょうか」ということについて、考えてみましょう。その前に、「勉強に耐える」という表現は、訂正の必要がありますね。というのも、「耐える」となると、我慢してその時間内を座り続け ることも含まれてしまいそうですからね。確かに遊びたいのを我慢して勉強する、くじけそうなのに踏ん張って勉強するという意味では、歯を食いしばって「耐える」でしょう。ただし、勉強がスタートすれば、その時間というのは、「耐える」時間ではなく、あくまでも、成果の出る勉強をし続ける時間と捉えてほしいと思います。勉強中、ずうっとスラスラ解けるのが成果ではないです。問題がはやく解ける!できない問題がわかる!etc....と段階による成果がありますからね。もちろん個人差がありますが、あくまでも机に座ったら、座る前よりも一歩前に進む。机に座るのを我慢するのではなく、成果を出すために我慢する!そんなイメージでしょうか。

 さて。これまでも何度か勉強時間についての話はしてきましたが、人によって、この勉強時間の「常識」は異なります。私たち塾屋も、勉強時間については、「常識」が変わっていっています。今現在にいたっていえば、現地校も塾もない日であれば、「小6以上であれば、1日10時間は十分できる」というのが今の常識です。

 特に、この地域のお父さん・お母さんは高学歴の方が多く、受験に置いても「価値組」でいらっしゃる場合が多い。そうなると10時間という長さは普通と思われることも多々あると考えられます。お父さん・お母さんご自身の受験のときにどのくらい勉強していたかという事実が基準になっている場合もありますね。また、上のお子さんが受験を経験されたのであれば、そのときの勉強時間が「常識」となります。それぞれの経験によって、勉強時間の「常識」は大きく違う。経験するごとに「常識」は変わるものだということです。2時間しかしていない方に、「10時間が常識ですよ!」なんて言っても意味がないですから。あるお父さんからは「現地校が無い日曜日など、1日13時間はできる」とおっしゃっていました。確かに1日は24時間ですから、8時間睡眠をとっても、計算上は十分可能な時間なわけです。

■量と質

 これは繰り返しますが、実際に「できた」「してきた」という経験値であることは間違いありません。ただ、はじめてのお子さんで、親自身も中学受験や高校受験、首都圏の受験などを経験されてない方であれば、10時間だ!13時間だ!というのは、単なる「うわさ」に過ぎません。というか、常識にしないでほしいのです。なぜなら、勉強できる時間も子供によって個人差があります。何も下地がないところで、ヘンな「常識」を持ってしまうと弊害になるからです。いきなり、「今日から10時間勉強しなさい!」なんてやってしまい、子供もシブシブ机に座って「10時間やった!」となっては、もちろん意味ありません。これでは、「ガマン大会」です。

 しかも、そこに現地校の内容が絡んでくる。お父さん・お母さんがアメリカでの教育を受け続けてきたのであれば、見えるものがある。ところが大学で海外留学したとしても、ESやMSでの学習内容は分からない。そうなると、どのくらい時間がかかるものなのか、感覚がない。子どもから「これは大変なんだ!」といわれたら、そうなのか、と思うしかない。真面目な顔で「なんで日本の勉強もやらなきゃいけないんだ!」といわれたら、連れてきてしまった責任を感じて何も言えず。。。そして、それが日本語運用能力の低下のみならず、日本の学校へ進学するものが身につけておくべき学力をも奪っていくわけです。

 受験の追い上げには、最終的には「時間の戦い」になってきます。とはいえ、ステップを踏んで時間を増やしていかないと、成果のない勉強になってしまうのです。そこで、まず「勉強の効率」と「時間」どちらを優先すべきか?を考えてほしいのです。もちろん答えは、「勉強の効率」を優先すべきですよね。大雑把に言うと、小5あたりまでは勉強の効率アップにとことんこだわって、勉強を進めていきます。そして、小6になって「勉強の効率」は維持しながら、「時間」も増やしていくのです。中学生では、これらが完成していることが前提になるわけです。ところが、中学生でもダメダメな子どもが多い。宿題は分からないところを空欄にしたまま。「わかりませんでしたぁ」といってオシマイ。説明を聞いて「ふーん」でオシマイ。覚えることもしない。だから同じミスを何度も繰り返してしまう。そしてそれを「わからない」「説明が難しい」などと責任転嫁する。自分の努力など微塵もないのに、逆ギレ・開き直り。  

■スプリンターのマラソン

 短距離ランナーのまま、勉強時間を増やすこと。勉強の効率を上がるには、ダラダラの勉強をしてはダメ!一気に集中してバァ〜とこなしていくことを短距離ランナーと例えたわけです。だから、いきなり時間を増やすのでなく、徐々に時間を増やしていく。私たちは「適度な負荷をかける」といったりします。「楽しいだけ」では決していけません。運動でも、楽器演奏などでもいえますが、ストレスは必要なのです。出来る範囲のことしかやらないのであれば、成長はしません。難しいことにも挑戦していかなければ、伸びは無いのです。(かといって、無謀な挑戦は自爆をもたらすだけです)

 まずは究極30分の勉強をいかに効率的にやっていくかがスタートになります。小1であっても、中3であっても、非常に中身の濃い30分を過ごす訓練が出来れば、10時間の勉強時間にも耐えられるようになります。例えばその30分。15分単位で、目標を完成させる、というもの。過去、ご紹介したことがありました。短い時間で集中して覚えきってしまう。ドラゴン桜の勉強法にもありましたね。体で覚えること。イメージで覚えることなど、です。

 そして、30分という短時間を効率的に使い、成果が出るようになれば、それを45分とか1時間とかに延ばしていく。そうしないと、30分の勉強で最大限、効率的な勉強をしても、入試に必要な膨大な量は全部できませんから。5時間なら集中して勉強できる子であれば、6時間を目指す。その後も徐々に増やしていくということです。そうやって、10時間ぐらいは誰でもできるようになる。  

■親の意識改革が必要

 実は、勉強時間の話をしていますが、子供自身には時間を気にさせないのがコツです。5時間やっていたときと比べて、勉強量を増やす。その結果、6時間こなすことができた。つまり、勉強量が「目標」で、時間は「結果」ということです。勉強時間というのは、そうやって延びていくものなんですね。「今日は6時間やろう!」という考え方で進んでいくと、どうしても途中で6時間乗り切るために途中でダレが出てくる。「勉強時間」よりも「勉強量」を意識するというわけです。そのためには、勉強する内容を最初に決めておくことが必要になります。海外に住むみなさんは、多くの場合、これは意識できていますね。メリハリがある、と言うか。平日は現地校の勉強に専念し、土日はきっちり日本の勉強。これが実践できていれば、私たちが警鐘を鳴らすこともないのです。土日に「やっているつもり」が多すぎる。結果が出ない勉強ならば、自己満足の勉強ならば、義務教育の間なら良いけれど、入試であれば対応できません。合格するには、提示されているハードルの高さを超すだけの跳躍力が必要なのですから。それを「でも、現地校の勉強をしっかりやっていれば合格できるっていういから」などと、うわさに振り回されて、ポイントのずれた学習生活を続けている。ナンセンス!  

■効果的な勉強

 今日は、これだけをやろう!という細分化が必要です。15分単位の「完全制覇」は達成感もあります。このあたりでサボリ屋は音を上げてしまうんです。「ええ?!面倒だし。。。」などといって、逃げます。「もう、覚えたから」「見て、覚えちゃったから」などといって、適当にします。「わかったから、もういい」ってね。でも、ひとつも身についていません。そういう言葉が出たら、逃がしてはいけません。

 教科、単元も細かく分けること。これが絶対。そうなると区切り方も工夫が必要。休憩もなしに勉強を続けるのではなく、勉強する内容を細かく分けることで時間を区切ります。教科や単元が変わるだけでも、気分転換になりますから。そして、休憩は短く設定すること。必ず休憩は10分以内で次の勉強をスタートします。さらに、午前中に4時間、午後に3時間、夕食後に3時間といった具合に、勉強するときは固めてやる方がはかどります。約1時間ごとに5〜10分程度の休憩をはさみ次の勉強をスタートする。これが、日曜日の10時間勉強の様子です。固まった時間を細かく分けてやるのがポイントです!  

■勉強漬け?!

 ここまでの話、いかがでしょうか?なんだか勉強尽くめ! とお思いかもしれませんが、これでも午後の3時間は自由時間があります。ダラダラしなければ、10時間勉強しても遊ぶ時間だってつくってやれるワケです。ただここで、実は、長時間の勉強をさせるために問題になってくるのは、子供1人でこなせれるか?ということなんです。答えは、ノーです。普通は、ね。教科、単元に分けた細かい計画を立てる。勉強の効率を常にチェックする。これらは、本人以外の誰からのサポートが必要になるということです。10時間勉強するときに疲れるのは子供というよりは、実際は、そばにつく親のほうです。これはやっている方はよくわかると思います。心の底では「塾に行ってくれ〜!」という感じでしょうから。13時間勉強させるときには、「腕」が必要です。集中が途切れそうになったら、すかさず単元を変えたりします。集中が途切れない、持続できる単元をいくつも手駒で持っている親だけが、13時間の管理が可能、というわけです。

 だからといって、例えば子供が大好きな社会を延々とやっても、これはまたバランスの問題になります。過去、そういう勉強方法もあるとご紹介したことがありました。しかしこれは、そういう勉強方法が最も集中できると自分で証明が出来た子どもだったからこそ成功したわけで、万人に通用するものではありません。勉強方法の手探りは、テストの成績で判断すべきです。成績向上が見込めないのに「このやり方じゃないと勉強できない」とホザくなら、諦めるしかありません。  

■厳しいけど、現実

 気分を害した方もいらっしゃるかもしれません。でも、大人の身勝手な、何の根拠もない「大丈夫」という言葉で、迷ってしまう子どもがいるのです。うわさに振り回されて、日本に帰ってから、とんでもない苦労を背負う子どももいるのです。帰国枠受験は、簡単ではありません。いわんや一般受験など、とんでもない。そうした困難に立ち向かう、勉強に真摯な姿勢を持つ子どもたちに現実をみせ、応援するのが私たちenaのかわらぬ姿勢です。

 

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